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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2001年1月号

今月の論評: 「責任ある事業契約者」を求める連邦政府

かしわぎ・ひろし

特集:人権問題で揺れる新政権の閣僚人事

1. 州最高裁、マイノリティ企業広報条例を違憲
"Court Bans Minority Outreach Ordinance" Thursday, December 7, 2000, Asian Week

2. 通信業界の規制緩和、マイノリティ企業に打撃
"Deregulation Called Blow To Minorities" Tuesday, December 12, 2000, New York Times

3. 運輸関係の労働者、麻薬検査の保護強化へ
"Workers Get Greater Drug Test Protection" Friday, December 15, 2000, New York Times

4. 政府事業契約の規則改定、経済界が批判
"New Rules on Government Contracts Are Criticized" Wednesday, December 20, 2000, Wall Street Journal

5. 政府のホームページ、障害者アクセスに
"US Web sites to Accommodate Disabled" Friday, December 22, 2000, New York Times

ニュース・ファイル

1. 英語力が不十分な移民、福祉からの脱却が困難
"A Language Of Work, Welfare and Opportunity" Sunday, December 3, 2000, San Francisco Chronicle

2. 慈善事業とからめた商戦、顧客にアピール
"Promotional Ties to Charitable Causes Help Stores Lure Customers" Monday, December 4, 2000, Wall Street Journal

3. ダンサーを夢見る少女、体型差別で訴え
"Girl Fights For a Chance To Dance" Thursday, December 7, 2000, San Francisco Chronicle

4. マイクロソフト、派遣労働者との訴訟で和解
"Temp Workers At Microsoft Win Lawsuit" Wednesday, December 13, 2000, New York Times

5. 公民権運動の記念の地セルマ、選挙は「戦い」
"In Selma, a Landmark Of Civil Rights, Voting Can Still Be a Struggle" Monday, December 18, Wall Street Journal

6. クリントン、永住権取得緩和法案に署名
"Clinton signs new law for immigrants" Thursday, December 21, 2000, San Jose Mercury News

7. インディアンの主権、酒類販売禁止めぐり議論
"Test of Indian Sovereignty And Government Resolve" Sunday, December 24, 2000, New York Times

8. 黒人の平均寿命の古い概念、保険業界に影響
"Old Notion of Black Mortality Influenced Insurers" Tuesday, December 26, 2000, Wall Street Journal

9. ハーレムの廃墟ビルを改修、住宅や商店に
"Homes and Shops to Be Built on Abandoned Property in Harlem" Wednesday, December 27, 2000, New York Times

10. クリントン、控訴裁に黒人判事を指名
"Clinton Judicial Appointment Side-Steps Senate" Thursday, December 28, 2000, San Francisco Chronicle

今月の論評: 「責任ある事業契約者」を求める連邦政府

かしわぎ・ひろし  

クリントン大統領は12月20日、連邦政府が事業委託を行う場合、候補企業のビヘイビアを調査し、問題があるとされる企業に 委託を行わないとする規則改定を発表した。調査の対象になるビヘイビアには、労働、雇用、環境、消費者、人権、納税、公正 取引などが含まれる。「責任ある事業契約者」を求める動きが現実のものになったのである。  

労働問題や環境保護、人権擁護、消費者保護などの企業のビヘイビアに関連する社会的政策において、政府の役割は重要であ る。通常、政府は、法律を制定し、施行、違反企業に罰則を科するという形で、この役割をはたすと考えられている。しかし、 これで政府の役割が十分はたされているのかという疑問の声は、事業契約との関係でだされていた。  

労働組合の組織化に関連して不当解雇を行った企業、有害廃棄物を不法投棄した会社、マイノリティや女性、障害者を差別 す る企業……。こうした企業は、数限りなく存在する。これまで政府は、こうした問題を事業委託の提供と関連づけて考えること はなかった。したがって、社会的に容認されないようなビヘイビアを行った企業にも、事業契約がだされていたのである。  

連邦政府が民間に委託する事業契約の総額は、年間2000億ドルにのぼる。邦貨に換算すると、約23兆円にものぼる巨費だ。 政府の事業契約は、税金の使用方法のひとつに他ならない。社会的に容認されないビヘイビアを行っている企業に、税金を与え ることを是とする考えは、説得力に欠ける。今回のクリントン政権の規則改正が注目されるゆえんだ。  

この措置は、突然現われたのではない。1997年に、ゴア副大統領がAFL-CIOと会談した際から議論になっていた。全米の主要 な労働組合の大半が加盟するAFL-CIOとの会談が発端になったという経緯が示すように、労働者の権利、とりわけ団結権との関 連ででてきたものだ。しかし、今回の規則改定で明らかになったように、対象範囲が大幅に拡大されている。  

政府は正しくあらねばらない。とすれば、政府の取引先である事業委託を受ける企業も、正しくあるべきだ。正しくない企業 とは取引をしない、すなわち事業を委託しない。こうした考えは、1960年代の公民権運動で生まれた制度に盛り込まれ、今日の アメリカ社会で、より幅広く政策として反映されるようになった。  

アファーマティブ・アクションも、そのひとつだ。マイノリティや女性の採用や昇進をめざさない企業には、事業契約の破棄 や禁止措置がある。各地の自治体が制定している、「食える賃金」保障を求めた生活給条例も、同様だ。生活保護を受給せざる をえないような賃金を払う企業に、自治体が委託を行うことは認めないという考えに立つ措置である。

もちろん、「責任ある事業契約者」の考えに反発する人々もいる。ブッシュ新大統領や議会共和党は、クリントン政権によ る、議会閉会中の規則改定発表に強く反発。アメリカ商工会議所は、首都ワシントンの連邦地裁に、訴訟を起こした。今後、保 守的な連邦最高裁は、規則改定を無効にする判決をだす可能性もある。  

規則改定が撤回されたとしても、改定の意義は残る。「責任ある事業契約者」の考えを広げることに寄与したからだ。政府が 「お上」として人々の権利を抑制する立場に立つことが当然とされる時代は過ぎた。企業の「悪」の部分を罰するだけで十分と みなされる時代も終えようとしている。「責任ある事業契約者」の考えは、21世紀の政府のあり方を示しているのではないだろ うか。
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