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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2002年1月号

今月の論評: テロ犠牲者への義捐金配分における混乱

かしわぎ・ひろし

特集:公正さ問われる犠牲者への義捐金

1. 民間人の犠牲者、制服組に比べ義捐金が不十分
“Civilian victims’ families calling charity unequal”
Monday, December 10, 2001, San Francisco Chronicle

2. 遺族の声の反映を約束、義捐金団体が表明
“Charities Pledge to Include Families’ Input”
Saturday, December 15, 2002, New York Times

3. テロ事件の遺族らへの義捐金、申請受付を開始
“Survivors can begin applying to Sept. 11 fund”
Friday, December 21, 2001, San Francisco Chronicle

4. オクラホマ連邦庁舎爆破事件の遺族に冷遇感
“Oklahoma bombing survivors feel slighted by Sept. 11 fund”
Saturday, December 22, 2001, San Francisco Chronicle

5. 従業員への支援、企業が財団通じて可能に
“Companies May Aid Employees Through Their Foundations”
Monday, December 24, 2001, Wall Street Journal

ニュース・ファイル

1. 最高裁、人種分離撤廃措置の廃止要求を却下
“High Court Paves Way for Yonkers Desegregation Plan to
Proceed ”
Tuesday, December 4, 2001, New York Times

2. 良心的兵役拒否者支援決議、バークレーが採択へ
“Berkeley City Council to vote on helping conscientious
objectors”
Tuesday, December 11, 2001, San Francisco Chronicle

3. ベイエイリア、太平洋諸島出身者が多数居住
“Bay Area has big Pacific Islander population”
Friday, December 14, 2001, San Francisco Chronicle

4. ビデオゲーム、主人公の多様性欠如などで問題
“Video Games Not Diverse, and are Harmful, Says
Advocacy Group”
Friday, December 14, 2001, Nichi Bei Times

5. チャーター・スクールの宗教色が問題に
“Charter school’s religious tone”
Monday, December 17, 2001, San Francisco Chronicle

6. 銃規制団体、テロリストによる銃購入を警告
“Gun control group warns on terrorists”
Thursday, December 20, 2001, San Francisco Chronicle

7. EEOC、テロ事件関連の雇用差別に取り組み
“EEOC Tackles Post-Sept. 11 Issues”
Thursday, December 20, 2001, Asian Week

8. 肉加工業者、不法滞在者の労働力に大きく依存
“Meatpackers’ Profits Hinge On Pool of Immigrant Labor”
Friday, December 21, 2001, New York Times

9. 戦争政策への支持消極的、国内のイスラム教徒
“Poll finds US Muslims lukewarm on war effort”
Thursday, December 27, 2001, San Francisco Chronicle

10. 黒人へ高い掛け金、保険会社を営業停止へ
“Liberty Life, Accused of Charging Blacks Higher
Premiums, Faces Suspension, Fines”
Thursday, December 27, 2001, Wall Street Journal

今月の論評: テロ犠牲者への義捐金配分における混乱

かしわぎ・ひろし

 史上初のアメリカ本土への攻撃、7000人にのぼる死者というセンセーショナルなメディアの報道の影響もあり、同時多発テロ事件の直後から、犠牲者、遺族、被害者への義捐金が全米から寄せられた。その額は、3ヶ月間で130億ドルに達した。日本円に換算すると、約1700億ドルもの巨額なものだ。
 寄付集めに当たっては、目的や使途を明確にしておくことが前提である。さもないろ、寄付者の善意が反映されない恐れがあるからだ。テロ事件の直後、赤十字は、義捐金集めを開始。九月十一日基金のような、今回の事件の犠牲者や被害者への救済だけを目的にした団体による寄付集めも行われた。
 集められた寄付は、犠牲者や遺族、被害者への義捐金として使われる。こういう大雑把な認識だけで、寄付集めも、寄付の提供も始まった。このため、赤十字のように、予想以上の資金が集まり、犠牲者や被害者への救援に用いる資金の「剰余」を団体の別の活動に用いることを表明するところでてきた。
 赤十字の問題に関しては、一時、「剰余金」を輸血用血液の予備を増やすための事業などの促進に用いることを公式に表明。しかし、抗議の声があがり、結局、寄付の全額を犠牲者や被害者に提供することにした。この間、理事会と会長の間で意見が対立、会長が辞任するという事態を招いた。
 12月に入ると、義捐金の配分が本格的にスタート。しかし、ここでも混乱が生じている。第一の理由は、義捐金を受ける資格について不明確な点があるためだ。第二に、同じ犠牲者でも、民間人と政府職員によって差があること。第三に、これまでの事件の犠牲者への対応に比べ、義捐金の額が極めて大きく、不公正感を生み出していることだ。
同時多発テロ事件の被害者には、連邦政府から義捐金が提供される。事件後に成立した、150億ドルにのぼる、航空業界の救済策の一環として盛り込まれた措置によるものだ。なお、義捐金を政府から受けた人々は、政府に別途の補償要求訴訟を起こすことができない。義捐金提供の審査では、連邦や州の家族法、連邦税務法などが参考にされる。
 家族法との関係で、最も深刻な問題は、「同性愛者の配偶者」が遺族である場合の対応だ。同性愛者のカップルを認知する連邦法はない。だが、一部の州では、同性愛者の配偶関係を認知している。このため、犠牲者の居住地により、義捐金が支払われたり、支払われないかったりする問題が生じうる。
 また、親子関係の場合、同性愛者であるか否かに関わらず、義捐金を受ける対象になる。長年、同性愛者の子どもを見捨てていた親でも、義捐金を受け取ることができる。しかし、「最愛のパートナー」を失ったとしても、同性愛者同士だったという理由で、拒否される可能性が大きいのである。
 民間人と政府職員への義捐金の差は、主に二つの理由に基づいている。ひとつは、政府職員が犠牲になった場合の措置が制度化されていること。もうひとつは、消防士や警察官に限定された寄付集めが行われ、多額の寄付が集まったためだ。
過去の事件における義捐金については、オクラホマ市の連邦庁舎爆破事件が引き合いに出される。この時は、連邦政府の職員でも10万ドルの義捐金を受けたにすぎない。今回のテロ事件では、ひとり165万ドルといわれるのに比べれば、不公正感がでても当然だろう。
テロの犠牲者に同情を禁じえないとしても、忘れてはならないことがある。「報復戦争」の犠牲になっているアフガニスタンの人々のことだ。彼らにどのような義捐金が届いているのだろうか。メディアの報道は皆無である。これこそ、最大の不公正であり、テロの背景にあるアメリカ第一主義の象徴ではないだろうか。

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