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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2000年2月号

今月の論評: 労働運動の再生とNPO

かしわぎ・ひろし

特集:新たな労働運動の動きと反発

1. カリフォルニア大学、搾取工場反対政策を強化
"UC Strengthens Anti-Sweatshop Policy" Saturday, January 8, 2000, San Francisco Chronicle

2. ホテルを組織した不法滞在者、送還措置に
"Illegal Immigrants Help Unionize a Hotel but Face Deportation" Thursday, January 13, 2000, New York Times

3. 組合費の強制徴収めぐり訴訟、カリフォルニア
“Suits Attack Compulsory Union Fees” Wednesday, January 19, 2000, San Francisco Chronicle

4. カリフォルニアを中心に労働組合員数が増加
"Union Ranks Up in '99, Led by California" Thursday, January 20, 2000, Los Angeles Times

5. 派遣労働者、斡旋会社に行動規範要求
"Temporary Workers Seeking Code of Conduct for Job Agencies" Monday, January 31, 2000, New York Times

ニュース・ファイル

1. 高齢者の自宅介護労働者不足が深刻化
“Home Aids for the Frail Elderly in Shorter Supply” Monday, January 3, 2000, New York Times

2. 黒人の学位取得率向上、黒人団体が報告
"Blacks Narrow the Education Gap" Friday, January 7, 2000, San Francisco Chronicle

3. 高齢化する発達障害者、過酷な選択に直面
"Facing Hard Choices As the Disabled Age" Sunday, January 9, 2000, New York Times

4. メディアの多様化促進策、団体間で対応に合意
“Coalition on TV Diversity Reconciles” Thursday, January 13, 2000, Asian Week

5. 大統領、ヘイトクライム法の対象拡大を提案
“Clinton urges wider hate laws” Sunday, January 16, 2000, San Francisco Examiner

6. 雇用差別訴訟、90年代に3倍増
"Workplace Bias Suits by Individuals Tripled in 1990s" Monday, January 17, 2000, San Francisco Chronicle

7. 経済成長にも関わらず、所得格差拡大
"Income Gap Broadens Amid Boom" Tuesday, January 18, 2000, Wall Street Journal

8. 伝統あるユダヤ系財団、再興なるか
“Can Venerable Jewish Charity Make a Comeback?” Wednesday, January 19, 2000, Wall Street Journal

9. カリフォルニアの新生児の14%、親が異人種
“14% of state newborns multiracial; capital area leads trend” Friday, January 21, 2000, Sacramento Bee

10. マイノリティの志願者が増加、バークレー校
" Berkeley Minority Applications on Rise" Thursday, January 27, 2000, San Francisco Chronicle

今月の論評: 労働運動の再生とNPO

かしわぎ・ひろし  

アメリカの労働運動は労働組合運動だ、といわれた時代があった。こういわれた理由のひとつは、労働組合以外 に労働者の権利擁護のために影響力をもつ組織がほとんどなかったことだ。もうひとつの理由は、労働組合が労働 者全体の権利擁護を担うだけの影響力をもっていたことである。  

しかし、時代は変わった。1930年代のニューディール時代に始まった労働組合の急速な成長は、戦後しばらく 引き継がれた。だが、1954年に組織率が35%に達したのを最後に、長期低落の時代に突入。1983年には20%を 切り、96年には15%すら割り込んだ。  

歴史の遺物とまでいわれるようになった労働組合の再生を目指し、全米労働総同盟産業別 会議(AFL-CIO)は、ジ ョン・スウィーニーを会長に選出。戦闘的なスタンスで国際サービス従業員組合(SEIU)を有数の労組に育て上げ たスウィーニーは、組織化への資金投入と政治力の強化を訴えた。  

1996年にスウィーニーが会長に選出された時、労働組合の再生を予想する識者はほとんどいなかった。組織率 の低下が産業構造や雇用形態の変化などのように、指導者が代わっただけで対応できるような原因ではないといっ た見方からだ。事実、組織率は、依然として低迷している。  

しかし、1月20日、スウィーニー執行部を勇気付ける統計が発表された。組織率の低下に歯止めがかかるととも に、組織労働者の数が2年連続して増加したのである。好景気を反映して、昨年1年間で270万人分もの雇用が創 出されたアメリカ。その一部が自動的に組合員になったことも一因だ。  

とはいえ、労働組合員の増加は、棚牡丹式に生じただけではない。アメリカの信託統治下にあるプエルトリコで は、公務員6万5000人が組織された。カリフォルニアで自宅介護労働者7万5000人が団体交渉権を獲得したニュ ースは、ニューディール以来最大の労働側の勝利といわれている。  

労働側の攻勢を可能にさせる最大の理由は、膨大な資金の投入だ。スウィーニー執行部成立以前、アメリカの労 働組合は、既存の組合員へのサービスを中心とした活動を行ってきた。新たに組合員を獲得するための予算は、全 体の3%にすぎなかった。これを30%に増やすのが新執行部の目標だ。

スウィーニーの出身単産であるSEIUは、さらにドラマチックな動きを示している。昨年、単産の予算の実に 47%に当たる7000万ドル(約77億円)を組織化に投入したのだ。この膨大な「投資」により、SEIUは、15万5000 人もの新たなメンバーの獲得に成功した。  

こうした激しい運動は、強い反発も生み出す。特集の記事にもあるような、合法的な就労資格をもたない組合賛 成派の労働者を送還措置によって圧殺しようとすることは、珍しいことではない。非組合員から組合費を徴収する ことを認めた法律には、保守派から訴訟が起こされている。  

最近の労働組合の動きに関連して見逃すことができないのは、NPOの役割である。本誌でもたびたび紹介してい る生活給要求は、NPOを抜きにして語ることはできない。各地のキャンパスも巻き込んだ大きな社会運動に発展し ている「搾取工場」反対運動も、同様にNPOがキープレーヤーのひとりだ。  

このキープレイヤーたちは、いま、自らの労働者の組織化を求められる事態に至っている。NPOの職員も労働者 だ。団体交渉を通じて、労働者としての権利が保障されなければならない。こうした声に、NPOは、戸惑いを見せ ながらも、徐々に受け入れる方向を示している。  

世のため、人のための存在のようにいわれたNPO。時代は、ここでも確実に変化しているのだ。
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