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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2001年2月号

今月の論評: 新政権の閣僚指名とNPOのロビー活動

かしわぎ・ひろし

特集:人権問題で揺れる新政権の閣僚人事

1.アシュクロフトの支持母体、キリスト教右派
"Religious Right Made Big Push To Put Ashcroft in Justice Dept." Sunday, January 7, 2001, New York Times

2.シャベツ氏、労働長官指名を辞退
"Chavez Abandons Cabinet Bid" Wednesday, January 10, 2001, San Francisco Chronicle

3.ミネタ、チャオの両氏指名、アジア系に賛否
"Mineta, Chao Show Minority's Political Split" Saturday, January 13, 2001, San Francisco Chronicle

4. アシュクラフト指名問題、新政権の試金石に
"Ashcroft Battle Becomes Test of Political Strenghts" Tuesday, January 16, 2001, New York Times

5. 大統領の人種融和策、民主党の批判で危機に
"Democrat's Charges of Racial Insensitivity Threaten New President's Call for Unity" Wednesday, January 24, 2001, Wall Street Journal

ニュース・ファイル

1. 拘置中の外国人保護規則、移民局が制定
"Policy To Protect Jailed Immigrants Is Adopted By US" Tuesday, January 2, 2001, New York Times

2. ジョージア州の黒人7人、投票方式問題で提訴
"7 Blacks Challenge System By Which Georgians Vote" Saturday, January 6, 2001, New York Times

3. ウォビリーの復活
"Return of the WOBBLIES" Sunday, January 7, 2001, San Francisco Chronicle

4. 中国人労働者の使用問題で組合が企業を提訴
"Union Sues - Chinese Labor Used On cranes" Friday, January 12, 2001, San Francisco Chronicle

5. プエルトリコ知事、海軍の爆撃演習中止を要請
"Puerto Rico Governor Seeks A Ban on Vieques Bombing" Sunday, January 14, 2001, New York Times

6. 労働組合の組織率、過去60年で最低に
"Unions Hit Lowest Point In 6 Decades" Sunday, January 30, 2001, New York Times

7. 妊娠中絶の政策、ブッシュ政権下で転換
"Abortion Policy Reversed" Tuesday, January 23, 2001, San Francisco Chronicle

8. 企業とのパートナーシップで公立学校を建設
"Town Hopes to Reclaim Its Indian Ancestors" Wednesday, January 24, 2001, New York Times

9. マイノリティ人口大幅増加、人口統計調整で
"Making Minorities Count" Thursday, January 25, 2001, Asian Week

10. 宗教団体による福祉活動、ブッシュ政権が推進
"Bush to Focus on a Favorite Project: Helping Religious Groups Help the Needy" Friday, January 26, 2001, New York Times

今月の論評: 新政権の閣僚指名とNPOのロビー活動

かしわぎ・ひろし  

史上最大の激戦といわれたアメリカの大統領選挙は、連邦最高裁の介入による決着という、異例の事態で幕を閉じた。新大統 領に確定したジョージ・ブッシュ氏は、直ちに閣僚の人選と指名に着手。日本でも、選挙が終わると、多数を占めた政党は、首 相と閣僚を選出する。一見すると、同じことだ。しかし、大きな違いがひとつある。閣僚に指名された人々は、上院の委員会に よる公聴会をへて、上院本会議で承認されなければならない。  

今回の閣僚指名では、次のような特徴と興味深い展開があった。第一の特徴は、8年ぶりに民主党から共和党に政権が委譲した ため、閣僚候補の政治姿勢が前政権の閣僚と大きく異なり、攻守が入れ替わった与野党の対立が予想されたこと。実際、ブッシ ュ大統領は、ジョン・アシュクロフト前上院議員をはじめとした超保守といわれる候補を指名、前政権との相違を鮮明にしよう とした。民主党は、これに激しく反発、指名承認が2月にずれ込んだ。  

第二は、大統領選挙の投票結果をめぐる争いで分裂した国論を統一する必要性が配慮されたこと。政党レベルでは、共和、民 主両党の融和を図るため、民主党のノーマン・ミネタ元下院議員を運輸長官に指名。また、マイノリティ票の圧倒的多数が民主 党に投じられたことを意識し、黒人やヒスパニック系、アジア系など、民主党支持者が多いマイノリティの指名も目立った。  

第三の特徴は、上院の議員構成が共和党50人、民主党50人を半々で、過半数の議員の賛成をえることが必ずしも容易でないこ とが予想されたこと。前述のように、アシュクロフト氏の承認に時間がかかったのは、そのためだ。また、リンダ・シャベツ元 公民権委員会局長は、不法滞在者をメイドとして雇っていた容疑で、労働長官の指名を辞退した。これも与野党伯仲状態のなか で、混乱を回避したいというブッシュ大統領の政治判断によるものだろう。

第四の特徴に、保守、リベラル両方のNPOが活発なロビー活動を展開したことだ。もちろん、NPOが閣僚指名に関連してロビ ー活動を行ったのは、今回が初めてではない。しかし、前述した3つの点などが絡み合い、NPOがロビー活動をする必要性とロ ビー活動による効果が期待できる可能性が高かったため、ロビー活動が促されたように思われる。  

アメリカではNPOのロビー活動が禁止されている、と理解している人が少なくない。ロビー活動は、2種類に大別 できる。ひと つは、議員や行政に直接働きかけを行うことだ。NPOは、予算の一定の割合しか投入できない。もうひとつは、社会一般 への教 育的なプログラムで、有権者の意識を変え、それが議員や行政の行動に変化を及ぼすことを期待するものだ。草の根ロビー活動 といわれ、制約はない。  

ロビー活動が政治活動と混同されることがある。政治活動とは、政党や政治家、候補者を直接支持したり、政治献金を行うこ とだ。政治活動は認められていないが、NPOが政治活動を行っているとみられるケースが少なくない。これは、NPOが政治活動 委員会(PAC)という別組織を作り、活動していることが、NPOそのものの活動として紹介されるために起きる誤解である。  

NPOのロビー活動が最も注目されたのは、アシュクロフト氏の司法長官指名問題に関してだ。リベラル派のAmerican Civil Liberties Unionと保守派のChristine Coalition、妊娠中絶問題を扱う団体などが全力を投入して闘う様子が報じられた。しかし、 現実には、指名候補の人選段階を含め、さまざまなNPOがロビー活動を展開した。こうしたNPOとロビー活動については、別 の 機会に詳述したい。
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