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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2002年2月号

今月の論評: 不法滞在者問題、「必要善」へ意識変化

かしわぎ・ひろし

特集:不法滞在者問題への新たな展開

1. 厳冬の密入国者への援助、ボランティアが実施
"Aid Stations Aim to Help Illegal Crossers Avoid
Perishing in Cold"
Tuesday, January 1, 2002, Los Angeles Times

2. 2002年は移民規制強化の年に
"New Year Brings Immigration Policy Changes"
Thursday, January 17, 2002, Asian Week

3. 不法滞在の学生への学費、州内生扱いに
"Tuition cut for immigrants"
Friday, January 18, 2002, San Francisco Chronicle

4. 90年代に不法滞在者が倍増
"Illegal immigrants in US doubled during the 90's"
Thursday, January 24, 2002, San Francisco Chronicle

5. 「奴隷状態」に置かれた人に特別永住ビザ発給へ
"'Slave' can stay if they would face extreme hardship at home"
Friday, January 25, 2002, San Francisco Chronicle

ニュース・ファイル            

1. 企業の資金で低所得者地域の開発促進
"Neighborhoods to get a boost from growth fund"
Wednesday, January 2, 2002, San Francisco Chronicle

2. 米国トヨタ、人種関係改善委員会設置
"Toyota Sets Up Race Relations Board For North America"
Saturday, January 12, 2002, Nichi Bei Times

3. SFの市議、ホームレス対策強化を提案に論議
"Supervisor pushes bans and beds"
Monday, January 14, 2002, San Francisco Chronicle

4. 慈善の選択で合意と不一致、検討委が発表
"Group Finds Common Ground and Hurdles on Religious- Based Plan"
Wednesday, January 16, 2002, New York Times

5. 最高裁、雇用差別問題の仲裁義務を緩和
"Supreme Court Gives Workers Legal Options"
Wednesday, January 16, 2002, Wall Street Journal

6. 議会の予算審議、高齢者問題が焦点に
"Congressional Budget Battle Centers on Older Americans"
Monday, January 21, 2002, New York Times

7. 黒人研究プログラム、全米200大学で提供
"African American Programs offered at 200 US colleges"
Monday, January 21, 2002, San Francisco Chronicle

8. 管理職の男女給与格差、拡大傾向
"Study Finds a Growing Gap Between Managerial Salaries for Men and Women"
Thursday, January 24, 2002, New York Times

9. 解雇されたマイノリティの管理職、孤立状態に
"Isolation at Top Hurts Minorities When Layoffs Hit"
Thursday, January 29, 2002, Wall Street Journal

10. 同性愛者の養子問題、州最高裁が審議へ
"Big adoption issue goes to high court"
Wednesday, January 30, 2002, San Francisco Chronicle

今月の論評:  不法滞在者問題、「必要善」へ意識変化

かしわぎ・ひろし

 同時多発テロ事件は、アメリカ社会にある不法滞在者への嫌悪感を噴出させるきっかけになった。大半の容疑者が中東からの出身者とみられ、学生ビザなどで入国、不法滞在になっていた人々もいたためである。
 事件後、中東からの留学生のうち、男性は全員、当局から事情聴取された。ビザが切れ、不法状態になっていた学生は、国外退去処分を受けた。中東=イスラム教=悪という、極めて深刻な差別と偏見に基づいた行為といえよう。
 不法滞在者への嫌悪感は、アメリカ社会に根強く存在している。国境警備の強化や不法就労の摘発の必要性の主張にみられるような、不法滞在者を「悪」として描く報道や感情、政策は、私の20年余りの在米経験において、一度たりとも消えたことがない。
 とはいえ、すべてのアメリカ人が不法滞在者に嫌悪感を抱いているというといいすぎになる。不法滞在者を「必要悪」として認める人も少なくないのも事実だ。
 「必要悪」の論法は、日本の3K労働のような仕事をだれがやるのか、不法滞在者しかいない、だから仕方がない、というものである。あるいは、不法滞在者がいなくなれば、一部の産業が労働力不足で混乱するという考えも強い。
不法滞在者のサイドからいえば、「ふざけた言い分」に聞こえるだろう。「仕方ないから滞在を認めてやっている」というトーンだけでなく、「どうせろくな仕事はできない」というニュアンスが表現されているからだ。

 しかし、最近、不法滞在者を「必要善」とみなす意識もでてきたように思える。「必要善」とは、不法滞在者の社会的、経済的な役割や貢献度を積極的に評価するだけではない。不法滞在者の立場をより高めていこうという姿勢である。
 カリフォルニア州における不法滞在者の学生への学費を州内生扱いにする措置は、その具現化ということができる。これは、カリフォルニア州の学部中心の州立大学システムと、短大のコミュニティ大学の学費を不法滞在者の学生に対しても、州内生扱いを認めるものだ。
 今年に入り、大学院を中心にして、州内に9つのキャンパスをもつカリフォルニア大学でも、同様の措置をとることを発表した。不法滞在者の学生が直ちに州内生扱いを受けることができるわけではないが、年間1万5000ドル近い州外生の学費を4000ドル弱の州内生扱いにされることの意味は大きい。
 さらに重要なのは、不法滞在者への意識変化が感じられることだ。カリフォルニア大学の評議会は、この問題を審議する際、不法滞在の学生の声も聞いている。フレズノ州立大学のアメリカ・ヘルナンデスさんは、評議会に対して発言した学生のひとりである。
 ヘルナンデスさんがアメリカに渡ったのは、生後3ヶ月の時だ。以来、カリフォルニアに住み続けてきた。したがって、他の州内生と同じように、教育を受ける権利があっても当然、と思うのは当たり前の感情であろう。
 評議会に対して、ヘルナンデスさんは、「私の人生ではいつも、移民は教育の最下層にいるといわれてきました。この状況を変える機会を与えてほしいのです」と述べた。

   不法滞在者ということばからは、犯罪者のようなニュアンスが感じられる。だが、移民法に違反しているとはいえ、大半は、働き、納税している。社会が必要としているからだ。今後、彼らの存在を「必要善」として、積極的な政策を推進すべきだと思う。

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