今月の論評:
権利の位置を占めた同性愛者
かしわぎ・ひろし
特集:同性愛者の権利をめぐる動き
1. 同性愛者の結婚の是非、バーモント州を二分
"Forced to Act Gay Marriage, Vermont Finds Itself Deeply Split" Thursday,
February 3, 2000, New York Times
2. 陪審員になる権利、同性愛者にも保障
"Ruling Protects Gay Juror Rights" Thursday, February 3, 2000, San
Francisco Chronicle
3. ウォール街、同性愛の学生の募集を積極化
"On Wall Street, a New Push to Recruit Gay Students" Wednesday, February
9, 2000, Wall Street Journal
4. 提案22への誤解をとくため討論会
“Panel Dispels Prop.22 Misconceptions” Thursday, February 17, 2000,
Asian Week
5. 宗教界、提案22に賛否両論
“Religious on both sides of Prop.22” Saturday, February 26, 2000,
Sacramento Bee
ニュース・ファイル
1. マイノリティ・ビジネスの定義変更で意見対立
"New Definition of 'Minority Business' Splits Blacks Wednesday, February
2, 2000, Wall Street Journal
2. バンカメ、地域貢献策の協定締結拒否
“Activists Pan Bof A On Loans” Wednesday, February 9, 2000, San
Francisco Chronicle
3. 大統領、連邦政府の雇用で遺伝子差別禁止へ
“Clinton Bans Use of Genetic Makeup in Federal Employment” Wednesday,
February 9, 2000, New York Times
4. 奴隷労働、今日も米国内に存在
"Slave trade still alive in US" Sunday, February 13, 2000, San Francisco
Examiner
5. 死刑制度に批判高まる
“Death Penalty Condemned” Monday, February 14, 2000, San Francisco
Chronicle
6. 恩赦による不法滞在者の合法化、労働界が決議
“Labor, in Switch, Urges Amnesty for All Illegal Immigrants” Thursday,
February 17, 2000, New York Times
7. ダイアロ射殺事件で、4人の警官に無罪評決
"4 Officers in Diallo Shooting Are Acquitted of all Charges" Saturday,
February 26, 2000, New York Times
8. レイプ容疑で死刑の黒人男性、100年後に潔白
“Lynching Victim Is Cleared of Rape, 100 Years Later ” Sunday, February
27, 2000, New York Times
9. 伝統ある女性雑誌、セックス記事で読者増狙う
“Old-Line Women's Magazines Turn to Sex to Spice Up their Sales”
Monday, February 28, 2000, New York Times
10. マケイン候補、キリスト教右派の「偏狭」批判
“Contender Challenges 'Intolerance'” Tuesday, February 29, 2000,
Wall Street Journal
今月の論評: 権利の位置を占めた同性愛者
かしわぎ・ひろし
10年前、セクシュアル・ハラスメントの啓発のために訪日した時には、問題を揶揄的に取り上げる姿勢が公然
とまかり通っていた。しかし、昨年、職場のハラスメントを禁止することを含めた均等法が改定された。被差別
部 落や在日韓国朝鮮人、障害者らへの差別も、公然としたものは減っている。
貿易黒字、人権赤字といわれて十数年。日本もやっと人権政策が整備され、人権感覚が重視されるようになって
きてきた。とはいえ、例外もある。同性愛者への姿勢は、その最たるものだ。テレビでも、「変態」的なイメージ
で取り上げることが多い。
アメリカで、同性愛者の問題が社会の注目を集めるとともに、同性愛者が公然とした活動を開始するようになっ
たのは、エイズ問題がきっかけだ。1980年代のことである。エイズが同性愛者の間に広がり、偏見が高まったこ
とと、エイズ自体に同性愛者自身が対処するためだ。
同性愛者の公然とした運動は、エイズへの偏見に留まず、強い反発も生み出した。ドメスティック・パートナー
から同性愛者同士の結婚へとつながる動きがそれだ。この動きは、従来の家族観や結婚観に根源的な問いかけをす
るものである。このため、保守派のみならず、「世間一般」から強い反発がでた。
ドメスティック・パートナーは、男性同士または女性同士、あるいは異性同士がカップルとして生活していくう
えで、結婚している人々と同様の権利を保障するものだ。具体的には、夫婦向けの公営住宅への入居や医療保険に
パートナーを加入することを認めることである。
サンフランシスコなどの自治体やカリフォルニアなどの州政府では、ドメスティック・パートナーをすでに認可
している。だが、同性愛者同士の結婚となると単純にはいかなかった。数年前、ハワイの最高裁が同性愛者の結婚
を認める判決をだして以来、反対派の危機感は急速に高まったからだ。
この結果としてでてきているのは、同性愛者の結婚を禁止するための立法化措置である。カリフォルニアでは、
住民投票の形で禁止の是非が問われることが決まった。特集のふたつの記事にも見られるように、この提案22に
対して、賛否両論が激しく対立している。
この原稿を書いているいま、提案22の結果は明らかになっている。約6割の賛成で、提案が成立したのである。
同性愛者への偏見が増すとして反対してきた人々や団体の間で、敗北感が漂っていないわけではない。しかし、こ
れで問題が終えることはないだろう。反対派の訴訟などが予想されるからだ。
賛成が上回ったとはいえ、提案22に反対する人々も4割近くにのぼった。昨年末、州の最高裁が同性愛者の権利
拡大を求めたバーモント州でも、州民の4割が最高裁の決定を支持している。これらの数時から、同性愛者同士の
結婚がもはやタブーではなくなったといえよう。
企業や行政のトップに黒人が進出するにつれ、アファーマティブ・アクションを否定する黒人が現れてきた。肌
の色ではなく、能力によって採用、昇進されたいという気持ちからだ。同性愛者の間にも、同様の傾向をみること
ができる。
特集記事にもあるように、ウォール街で同性愛の学生のリクルートが盛んだ。しかし、学生の中には、同性愛者
だからではなく、能力によって選ばれたいという気持ちも強い。このため、企業側は、同性愛者を含めた公正な職
場をピーアールしている。
ヘイトクライムの標的にされるなど、同性愛者は、依然として根強い差別
を受けている。だが、こうした学生や 提案22に反対する人々の意識の中に、マイノリティや女性、障害者と同様、人権という権利の一角を同性愛者が
占めた現実をみた感じがする。
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