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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2001年3月号

今月の論評: 新政権の人権政策にみる後退と混乱と進歩

かしわぎ・ひろし

特集:ブッシュ政権の人権政策への反応

1. ブッシュ大統領、障害者自立促進政策を提唱
"Bush Outlines Plan for Disabled." Friday, February 2, 2001, San Francisco Chronicle

2. 宗教団体への支援策、実務的な問題に直面
"Practical Questions Greet Bush Plan to Aid Religious Groups" Monday, February 5, 2001, New York Times

3. 中絶の権利擁護派、ブッシュ政権の政策に対抗
"Pro-Choice Challenge to Bush" Thursday, February 15, 2001, San Francisco Chronicle

4. 新政権の労働政策に組合側が懸念
"Bush's Labor Stance Is Making Unions Uneasy" Friday, February 16, 2001, Wall Street Journal

5. 司法長官、共和党の同性愛者団体と会談
"Ashcroft Meets with Gay GOP Organization" Friday, February 23, 2001, San Francisco Chronicle

ニュース・ファイル

1. カリフォルニア大学の女性教員採用減に批判
"Decline in UC's hiring of women profs decried" Thursday, February 1, 2001, Sacrament Bee

2. 大学入試の標準テストで障害者の権利保障
"Disabled Achieved Victory In Taking Standard Exams" Thursday, February 8, 2001, New York Times

3. 遺伝子情報解明で新たな差別を懸念する声
"Gene map may cause new bias" Monday, February 12, 2001, Oakland Tribune

4. 反ハラスメント政策、言論の自由に敗訴
"Free-Speech Ruling Voids School District's Harassment Policy" Friday, February 16, 2001, New York Times

5. 労働界のトップ、労組は生死の境と警告
"Labor Leaders Sounds Do-or-Die Warning" Monday, February 19, 2001, New York Times

6. カリフォルニアの人種別経済格差、依然大
"Big Disparities Among Races, New Study Shows" Thursday, February 22, 2001, San Francisco Chronicle

7. アジア系の法学部学生、提案209の影響わずか
"Asian American Students Trickle In to Law Schools" Friday, February 23, 2001, San Francisco Chronicle

8. トランスジェンダーへの権利擁護、SFで拡大
"Another Minority Flexes Its Muscle in San Francisco" Saturday, February 24, 2001, New York Times

9. 数百万人の低所得者、フードスタンプ申請せず
"Millions Eligible For Food Stamps Aren't Applying" Monday, February 26, 2001, New York Times

10. 日系人の法曹界入り、1世紀後に実現
"Balancing Scales of Injustice" Tuesday, February 27, 2001, San Francisco Chronicle

今月の論評: 新政権の人権政策にみる後退と混乱と進歩

かしわぎ・ひろし  

共和党のブッシュ政権は、司法長官に超保守といわれるアシュクロフト氏を指名、マイノリティや女性、同性愛者らの権利擁 護団体から激しい批判を受けた。しかし、数で勝る共和党は、連邦上院で同氏の司法長官就任を承認させ、21世紀のアメリカの 人権政策が大きく後退するのではないか、という懸念の声も聞かれるまでになった。  

この懸念が現実化したものとをして受けとめられたのは、妊娠中絶問題に関する政策変更である。政権発足からわずか48時間 後に、ブッシュ大統領は、海外で家族計画問題に取り組んでいる団体に、連邦政府の補助金を提供しないことを決定したのだ。 クリントン政権の政策を180度転換し、1980年代のレーガン時代に戻ったことを意味する。  

妊娠中絶を女性の権利とみなす 人々は、この措置に強く反発、議会に法案を提出する意思を表明、大統領の政策に真っ向から対決することになった。妊娠中絶 を合憲とした連邦最高裁の判決が覆される可能性もあり、この問題をめぐり、国論を二分した争いが当面 続くことは必至だ。

ブッシュ政権の目玉のひとつは、宗教団体による社会福祉活動に連邦政府が補助金を提供する、いわゆる信仰に基づく社会福 祉プログラムである。このプログラムでは、宗教団体が提供する社会福祉プログラムの参加者に、祈りの強要などが認められる ことになる。ここでも、政教分離の原則とのからみもあり、激しい議論が生じている。  

議論の焦点は、次のようなものだ。特定の宗教を普及させるために、税金を使うことが許されるべきか。国家による宗教への 介入を招くことにならないか。カルト的な宗教団体などが申請した場合、歯止めをかけることができるか。政府が求めるような 事業管理能力を宗教団体がもっているか。  

妊娠中絶や宗教に関して、日本では人権問題として認識されることは少ない。しかし、中絶クリニックの前で激しい抗議デモ が行われたり、中絶医が射殺されるなどの事態もある。大統領は、中絶問題を信仰に基づく社会福祉プログラムに関連させる姿 勢もみせており、賛否が激しく対立している。

しかし、新政権発足後1ヵ月余りの人権政策をみてみると、すべての領域で混乱や後退現象が生じているわけではない。大統 領選挙の集計作業を通じて大きな亀裂を生んだ黒人社会との融和推進の姿勢は、新政権の慎重さを示唆している。黒人が圧倒的 多数を占める教会へ礼拝に訪れ、議会や在野の黒人指導者と懇談の機会をもつなどしているからだ。  

同性愛者である男性を大使に任命することに強く反対したアシュクロフト氏は、人権団体との会談相手のトップに、共和党系 の同性愛者団体であるログ・キャビンを選んだ。ここでも、超右派というレッテルを貼られた同氏が、穏健な姿勢を打ち出そう としていることが伺われる。  

障害者への政策に関しては、進展ということばを用いることができる内容が提示された。「新しい自由」イニシアチブと呼ばれ るもので、障害者の自立生活を促進するため、5年間で総額10億ドルを投入する計画だ。  

人権政策に関しては、民主党が推進、共和党が抑制というイメージがある。しかし、共和党がすべて人権政策に後ろ向きとい うことではない。両党は、ぞれぞれの立場から、人権団体の取り込みをねらっているのである。この事実は、人権団体の政党支 持を複雑にさせていく。とすれば、人権政策の状況を確認していくには、政策の背後にある動機などを含めて検討していくこと が必要となろう。
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