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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
1999年3月号

今月の論評: 企業ビヘイビアを変えるNPO

かしわぎ・ひろし

特集:巨大化する企業の行動を問う声の高まり

1. シェブロン、障害者のアクセス問題で和解
“Chevron, Disabled Reach Pact” Wednesday, February 3, 1999, San Francisco Chronicle

2. 喫煙者へ補償金、史上最高の5100万ドル
“51 Million Verdict Awarded to Smoker Is Biggest of Its Kind” Thursday, February 11, 1999, New York Times

3. 高齢の労働者、企業年金が年齢差別と主張
“Older Workers Fight ‘Cash Balance’ Plans” Thursday, February 11, 1999, Wall Street Journal

4. サリバン師、企業の腐敗防止規範作りに協力
“Rev. Sullivan, Apartheid Foe, Helps US Write Anticorruption Code for Business” Wednesday, February 17, 1999, Wall Street Journal

5. ジャクソン師、シリコンバレーへ
“Jesse Jackson Takes on Silicon Valley” Thursday, February 25, 1999, San Francisco Chronicle

ニュース・ファイル

1.就業中に我が子と遊ぶプログラム、企業が支援
"Corporate subsidy gives harried parents time to play with their kids" Monday, February 1, 1999, San Francisco Chronicle

2. NAACP、黒人男性の射殺事件の究明要求
“NAACP Leader Presses For Justice in Fatal Shooting” Monday, February 8, 1999, New York Times

3. バンカメの元女性副社長、新銀行を支持
"Former BofA Exec Says Bank Does Back Women" Tuesday, February 9, 1999, San Francisco Chronicle

4.ストーカーの元夫を殺害した女性、拘留される
"Women Jailed In Slaying Of Ex-Husband" Friday, February 12, 1999, San Francisco Chronicle

5. サンフランシスコ、人種別入学制度廃止
“SF Schools Abolish Race Caps” Thursday, February 18, 1999, Asian Week

6. ネブラスカ州の平等法、死刑執行を差し止め
“Nebraska’s Law on Equal Rights Keeps a Condemned Killer Alive” Saturday, February 20, 1999, New York Times

7. EEOC、未処理の訴えが急減
“Job Discrimination Agency Lightening Its Load” Monday, February 22, 1999, New York Times”

8. 日系人収容補償局解散へ、最終的な統計を発表
“ORA Officially Closes, Releases Final Figures” Wednesday, February 24, 1999, Hokubei Mainichi

9. NPO、湾岸地域で低所得者住宅建設
“Eden Housing creates affordable apartments from run-down places all over Bay Area” Thursday, February 25, 1999, San Francisco Chronicle

10. 女性団体、大統領のレイプ問題で被害者を支持
“Feminists Call Rape Charge Against Clinton ‘Credible’” Friday, February 26, 1999, San Francisco Chronicle

今月の論評: 企業ビヘイビアを変えるNPO

かしわぎ・ひろし  

1970年代から80年代に斜陽化したといわれたアメリカ経済は、90年代に入ると活気を取り戻し、いまや「世 界経済で一人勝ち」といわれるまでになった。経済の発展は、基本的に歓迎すべきことだ。しかし、巨大化の一途 をたどる企業の姿に、懸念を覚える人も少なくないだろう。  

企業のビヘイビアに民主的な規制を加えなければならない。アメリカでは、こういう意見とそれに基づく制度 が、20世紀初頭から徐々に広がってきた。とりわけ1960年代以降は、マイノリティや女性の雇用、環境保護など の問題との関連で、大きな注目を集めた。さらに、1970年代から80年代にかけて、南アフリカのアパルトヘイド などが焦点になった。  

アメリカで企業のビヘイビアを規制ないしは変えるために用いられる手段として、最も良く知られているのは、 訴訟である。昨年11月、カリフォルニアをはじめとした46の州政府は、タバコ会社に対して起こしていた訴訟 で、総額2060億ドルという膨大な金額の補償を手にした。  

このような訴訟を、行政が企業に対して起こすことは、日本では考えにくだろう。企業からの法人税もあるし、 さまざまなロビー活動で腰砕けになるのが普通だからだ。しかし、アメリカの行政側の考えは単純である。タバコ による健康被害により政府の医療費負担の増加は甘受できない、ということだ。  

とはいえ、行政が先陣を切って企業を訴えることは、ほぼありえない。現実には、個人やNPOが端緒を開き、 それに行政が追随するという形が一般的である。企業などに訴訟を起こし、社会変革を進める運動をリーガル・ア ドボカシーと呼んでいる。  

特集の記事にあるシェブロンを訴えたDisability Rights Education and Defense Fund (DREDF)は、この種の団 体のひとつだ。DREDFは、障害者の自立生活運動の流れを組むNPOで、雇用や住宅など障害者の日常レベルの問 題に対するサービスを提供しているIndependent Living Center (CIL)や障害者問題のシンクタンクであるWorld Institute on Disabilities (WID)の姉妹団体である。

企業のビヘイビアを変えることを目的にしたNPOは、訴訟だけを手段にしているのではない。企業との交渉や圧 力行動の展開、企業の行動規範を作り遵守させていく運動も少なくない。前者の例として、Rainbow/PUSH Coalitionをあげられる。  

公民権運動家のジェシー・ジャクソン師が創設した団体で、米国三菱のセクシュアル・ハラスメント事件でも、 National Organization for Women (NOW)とともに、活発な動きを示した。主として、マイノリティや女性の登 用、マイノリティ企業との取り引きの拡大などを求めている。  

後者の古典的な例は、サリバン原則である。南アフリカでのアメリカ企業の事業展開を問題視したもので、レオ ン・サリバン師が提唱したものだ。特集のなかでも紹介したように、サリバン師は現在、国務省の要請を受け、ア メリカの多国籍企業の行動規範、サリバンIIの策定を進めている。  

同様の例に、バルデュース原則やマキダドーラ原則がある。前者は、エクソンの石油タンカー座礁 事故を契機に 作られた環境保護のための企業の行動規範だ。現在では、CERES原則と呼ばれている。環境保護団体と社会的責任 投資運動の連合組織であるCERESからとったものである。  

マキダドーラ原則は、メキシコにおけるアメリカをはじめとした先進国の多国籍企業の行動規範を示したもの だ。環境保護や労働者保護政策の拡充を求めている。作成したのは、Interfaith Coalition for Corporate Responsibilities (ICCR)というNPOだ。こうしたNPOの存在が、企業ビヘイビアをより良いのものにさせていると いえよう。

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