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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2000年4月号

今月の論評: 人口統計調査の重要性と問題性

かしわぎ・ひろし

特集:人口統計調査と人権問題

1. アジア系高齢者向けの人口統計相談窓口開設
"Santa Clara County Agencies to Host Census Assistance Center" Friday, March 10, 2000, Nichibei Times

2. 人口統計の人種調査項目で議論
"Multiracial Census Form Poses Dilemma" Saturday, March 11, 2000, San Francisco Chronicle

3. 人口統計局、第二次大戦中の日系人収容に加担
"Census Bureau Aided Removal Of Japanese, Report Says" Friday, March 17, 2000, New York Times

4. ホームレス人口の集計に努力、人口統計局
"Census makes extra effort to find SF street population" Wednesday, March 29, 2000, San Francisco Chronicle

5. 人口統計調査の回収率、サクラメントは低水準
“Census returns lagging” Thursday, March 30, 2000, Sacramento Bee

ニュース・ファイル

1. 異人種間のデート禁止措置撤廃、BJ大学
“Interracial dating ban repealed” Saturday, March 4, 2000, Sacramento Bee

2. 赤ん坊の生み捨て抑制に、新たな立法要求へ
"Deaths of Unwanted Babies Prompt Calls to Ease Laws" Monday, March 6, 2000, New York Times

3. 雇用差別か傲慢な上司か、困難な立証
"Discrimination Is Hard to Prove If a Boss Treats Everyone Badly" Friday, March 10, 2000, Wall Street Journal

4. 教育長官、バイリンガル教育拡大を主張
"Education Chief Calls For Bilingual Schools" Thursday, March 16, 2000, San Francisco Chronicle

5. ユダヤ教会連続放火事件、今日、告発へ
“Synagogue arson charges set, sources say” Friday, March 17, 2000, Sacramento Bee

6. 銃規制を求め100万人の母親、母の日に集会
"'Million Mom March' on Gun Safety Is Scheduled For Mother's Day" Wednesday, March 22, 2000, Wall Street Journal

7. 女性差別訴訟5億ドルで和解、「アメリカの声」
"Government Offers $508 Million In Record Sex-Bias Settlement" Thursday, March 23, 2000, New York Times

8. 里親制度を終える若者、教育や資金が不足
“Youths Leaving Foster Care With Few Skills or Resources” Tuesday, March 28, 2000, New York Times

9. 高校の成績上位15%を大学入学許可へ、ぺ州
“Pennsylvania Colleges Weigh Admitting Top 15% at Schools" Thursday, March 30, 2000, New York Times

10. 陸軍の女性高官、セクハラで訴え
“Female General In Army Alleges Sexual Harassment” Friday, March 31, 2000, New York Times

今月の論評: 人口統計調査の重要性と問題性

かしわぎ・ひろし  

今年は、10年に一度の人口統計調査が実施される。「2000年の人口統計に回答を!」という訴えが、テレビや ラジオ、新聞、街角で、繰り広げられている。最初の調査が行われたのは、1790年。以来、2世紀以上にわたり 行われてきた調査だ。  

この調査は、単に、人口を調べるだけのものではない。38ページにわたる調査表には、人種や年齢だけでな く、さまざまな生活状況を問う部分がある。寝室の数は、孫と同居しているか、通 勤にフェリーを用いるか、など の質問だ。  

なぜ、このようなことまで回答する必要があるのか。回答した場合、プライバシーが守られるのか。こうした疑 問が生じるもの当然である。疑問は、回答への消極化を導く。事実、1960年以降、人口統計の回答率は低下して いるという。  

人口統計局の説明は、こうだ。寝室の数は、住宅政策の決定に用いられる。すなわち、人口を寝室の数で割る と、1寝室当たりの人口が明らかになる。これにより、住宅不足か過多かが判断され、連邦政府の住宅関連予算に 影響するのである。  

では、孫との同居は、どう説明されるのか。今回の調査で新たに加わったこの設問は、孫の世話を祖父母がして いる割合がどの程度あるか調べるために必要という。これにより、チャイルドケアの予算などが影響を受けること になるのだろう。  

換言すれば、未回答は、こうした問題の深刻さを過少に判断させる結果になる。より具体的には、問題解決のた めの予算が十分計上されないということだ。未回答者ひとりにつき、10年間で1600ドルの予算の損失がでるとい われている。

政策決定と予算配分の基礎データ。これが人口統計調査の結果の利用方法である。アメリカにおいて、社会問題 に対応しているのは、政府だけではない。NPOも重要な一部だ。このため、NPOは、調査にもれがないように要求 している。  

調査もれを防ぐために、人口統計局は、NPOと積極的に連携。NPOに人口統計の相談窓口を開催するよう呼びか けている。もちろん、ただでではない。委託事業として、人件費や事務所経費を払い、広報に協力してもらってい るのである。  

人口統計調査の結果がなんらかの形で流出しないか。こういう懸念をもつ人は少なくない。特集の記事にあるよ うに、日米開戦直後、日系人の情報が軍部にわたり、強制収容などに利用されていたことが明らかになった。  

調査に参加を求められているのは、一般のアメリカ市民だけではない。不法滞在者も含めた調査が行われる。情 報の漏洩に不安をいただく人がいても当然だ。移民帰化局は、調査期間中、不法滞在者の取り締まり抑制を発表、 不安解消をめざしている。  

人口統計で最も議論を呼んでいるのは、人種に関する設問だろう。今回から、人種に対する回答が63種類に拡 大した。複数の人種的バックグラウンドをもつ人々が自らのアイデンティティを示せるように、との配慮からだ。  

例えば、白人と黒人の両親をもつ子どもは、これまで白人か黒人のいずれかを選択することが求められた。しか し、今回から、複数の回答が可能になった。これにより、マイノリティと判断される人々が少なくなるのではない か、という懸念がでた。  

クリントン大統領は、この懸念に対して、白人とマイノリティの両方の人種的バックグラウンドをもつと回答し た人をマイノリティとみなすというガイドラインを発表。人口統計におけるマイノリティ人口の減少が抑えられる ことになった。  

このように、今回の人口統計調査にみられる、紙一重の差の意義と問題は、最近の人権問題の複雑さを如実に反 映しているといえよう。
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