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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2001年4月号

今月の論評: 人口統計の結果発表の混乱と人種問題

かしわぎ・ひろし

特集:2000年の人口統計の発表

1. 人口統計局、統計修正に反対
"Bureau Opposes Adjusting Census." Friday, March 2, 2001, Washington Post

2. 未修正統計で連邦補助の減少、州政府が懸念
"State Fears Funding Cut Over Census Bureau Ruling" Friday, March 2, 2001, San Francisco Chronicle

3. 商務省、未修正統計の使用を決定
"States Told to Use 'Raw' Census Figures" Wednesday, March 7, 2001, Dallas Morning News

4. ヒスパニック系、90年代に急増
"Number of Hispanics Ballooned in 90's" Thursday, March 8, 2001, Wall Street Journal

5. 複数の人種的背景をもつ人々、700万人に
"For 7 Million People in Census, One Race category Isn't Enough" Tuesday, March 13, 2001, New York Times

6. 複数の人種的背景をもつ人々、政策に影響
"Multiracial Identification Might Affect Programs" Wednesday, March 14, 2001, New York Times

7. 受刑者や養護施設の入居者が急増、人口統計
"Census Shows Jump For People Living in Jails, Nursing Homes" Wednesday, March 23, 2001, San Francisco Chronicle

8. 人口増で選挙区の策定で議論、カリフォルニア
"Politicians bracing for new district line" Saturday, March 31, 2001, Sacramento Bee

ニュース・ファイル

1. 法律団体の行政への訴訟、最高裁が合憲と判断
"Court Rules Against Congress on Legal Services" Thursday, March 1, 2001, Wall Street Journal

2. UFW、イチゴ農場で労働協約締結
"As It Struggles to Rebuild Itself, UFW Lauds a New Strawberry Pact" Thursday, March 8, 2001, Los Angeles Times

3. 伴侶を犬に殺された同性愛者、所有者を訴え
"Wrongful Death Suit Will Test State Law" Tuesday, March 13, 2001, San Francisco Chronicle

4. アファーマティブ・アクション復活求め集会
"Affirmative Action Rally Draws Thousands" Thursday, March 15, 2001, Asian Week

5. いじめ対策法、コロラド州で制定へ
"Bill on Student Bullying Is Considered in Colorado Monday, March 19, 2001, New York Times

6. 低所得者向け住宅建設促進に、融資保障拡大
"HUD to Raise Mortgage-Insurance Limit To Spur Building of Affordable Housing" Tuesday, March 20, 2001, Wall Street Journal

7. 連邦下院に上程、日本企業の捕虜労働補償法案
"Congressmen Honda and Rohrabacher Introduce New POW Bill" Friday, March 23, 2001, Nichi Bei Times

今月の論評: 人口統計の結果発表の混乱と人種問題

かしわぎ・ひろし

連邦商務省人口統計局は、昨年実施された人口統計調査の結果を発表した。発表によると、2000年4月1日現在の全米の総人 口は、2億8142万1906人。しかし、これが正確な人口かどうか議論が生じている。人口統計局は、約300万人の調査漏れがあ ったと推定。にもかかわらず、調査漏れを含めた修正した数字が公表されていないからだ。  

アメリカで最初の人口統計調査を実施したのは、トーマス・ジェファーソン。調査結果 は、初代大統領のジョージ・ワシント ンに提出された。合衆国憲法は、人口統計を10年ごとに実施することを定めている。黒人奴隷が存在した時代、憲法は、黒人の 数を白人の5分の3として計算するように規定するなど、人種差別を色濃く反映していた。  

調査漏れも、人種差別と関連している。人口統計局が調査漏れへの対策を最初にとったのは、1940年。徴兵の該当者の数が、 人口統計で確認された徴兵年齢の男性より3%多かったことがきっかけだ。換言すれば、3%の調査漏れがあったことになる。黒 人男性の徴兵該当者は、徴兵年齢に当たる黒人男性より13%も多かった。調査漏れは13%となる。

なぜ、調査漏れが生じるのか。不在がち、調査書を読めない、なんからの理由で回答を拒否したため……。理由はさまざまだ が、調査漏れの割合は、白人に比べ、マイノリティが圧倒的に高い。1990年の調査では、全体では1.58%だが、アジア系は 2.33%、インディアンは4.52%、黒人は4.43%、ヒスパニック系は4.96%と見積もられている。  

人口統計の数字は、連邦下院議員の議席数を各州に配分する際に用いられる。また、、州が連邦下院議員の選挙区を策定する 際にも用いる。さらに、連邦政府が州や自治体に提供する補助金の額を決定する基準となる。このように人口統計は、政治的、 経済的な役割をもつため、公正さの確保が必要だ。  

とはいえ、広大なアメリカで、ひとり残らず人口を直接把握することは不可能である。人口統計調査は、この不可能さを前提 にしている。すなわち、調査では、全米を人口統計地域という小さな地域に分割し、それぞれの地域で最低90%の住居について 直接調べる。そのうえで、追加のサンプル調査を行い、統計漏れを補う作業が行われるのである。

したがって、未修正の統計、サンプル調査に基づく修正された統計というふたつの人口統計がでてくる。1990年の人口統計の 結果、調査漏れがマイノリティに多く見られたため、、マイノリティ社会から修正統計を求める声が高まった。連邦議会は、修 正統計を公式な統計とする方向で合意した。  

しかし、人口統計の結果は、各州への連邦下院議員の議席数配分と、州が連邦下院議員の選挙区を策定する際にも使用。そし て、修正統計で共和党は20議席以上失うという調査結果が発表された。これ以降、共和党は、未集計統計に固執。修正統計を求 める民主党やマイノリティ団体と対立している。  

2000年の人口統計に当たり、人口統計局は、修正統計の妥当性を強く主張。したがって、2001年3月に発表されるときに は、修正統計が公式なものとされることが期待された。しかし、政権が民主党から共和党に代わり、人口統計局を管轄する商務 省は、未修正統計を求める方針を表明した。  

学識経験者らで構成される人口統計局の諮問委員会は3月1日、予想に反し、未修正統計を用いることを勧告。修正統計が未修 正統計より正確性が高いことを立証する時間的余裕がないというのが理由だ。だが、未修正がより正確だという保障もないはず だ。マイノリティの権利が侵害されたことに憤りをもつのは、私だけではないだろう。
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