バックナンバー
アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
1999年4月号

今月の論評: 多様化する障害者のニーズとNPO

かしわぎ・ひろし

特集:障害者の厳しい状況と改善の努力

1. 身体障害をもつ親の全米規模の資料センター
"Agency will serve as national resource for disabled parents" Thursday, March 11, 1999, Berkeley Voice

2. 知的障害をもつ成人の看護求め、集団訴訟
"Suit Seeks to Place Retarded Adults" Sunday, March 21, 1999, New York Times

3. 住宅のアクセス問題で提訴、政府とNPO
"Developers Fail To Meet Mandate On Housing Access" Monday, March 23, 1999, New York Times

4. 高校の学習障害をめぐる訴訟、公判開始
"A Prep School Faces Lawsuit Over Disability" Monday, March 25, 1999, Wall Street Journal

5. 知的障害者の団体で不正経理が問題に
"Florida Details Wide Abuse At Agency for the Retarded" Wednesday, March 31, 1999, New York Times

ニュース・ファイル

1. 母親の就労、子どもへの悪影響なし
"Children of Working Moms Get Along Just Fine" Monday, March 1, 1999, San Francisco Chronicle

2. インディアン、100年ぶりに野牛を救う儀式
"Lakota Invoke Old Rite In Effort to Save Bison" Tuesday, March 2, 1999, New York Times

3. 日系団体、南京大虐殺を非難
"JACL District Condemns 'Forgotten Holocaust'" Thursday, March 4, 1999, Asian Week

4..レイプの被害者を救済する連邦法に違憲判決
"Civil Rights Setback For Women" Saturday, March 6. 1999, San Francisco Chronicle

5. 生活給求め涙の訴え、SFで公聴会
"Workers tearfully tell SF supervisors what it's like to get bare minimum" Sunday, March 7, 1999, San Francisco Examiner

6.インディアン、土地利用代金めぐり行政訴訟
"Poor Indians on Rich Land Fight a US Maze" Tuesday, March 9, 1999, New York Times

7.メリルリンチの性差別訴訟、多数の女性が和解
"Claims Rise in Merrill Sex Bias Settlement" Thursday, March 21, 1999, San Francisco Chronicle

8. 移民法が引き裂く同性愛者のカップル
"Gay Couples Are Divided by '96 Immigration Laws" Thursday, March 23, 1999, New York Times

9. 全米で学生運動が活発に、労働問題が焦点
"Activists Surges at Campuses Nationwide, and Labor Is at Issue" Monday, March 29, 1999, New York Times

10. 中絶の権利、2000年の大統領選挙の争点に
"Abortion Right Tied to 2000 Election" Tuesday March 30, 1999, San Francisco Chronicle

今月の論評: 多様化する障害者のニーズとNPO

かしわぎ・ひろし  

アメリカの人権擁護団体といえば、National Association for the Advancement of Colored People (NAACP)が真っ先にあげられる。創立1909年、会員数50万人をもち、マイノリティの地位 向上を目指してい る。このNPOが人権擁護団体の代名詞になるのは、人権問題がマイノリティ=人種=肌の色の問題という発想から だ。  

しかし、肌の色以外に目を向けると、人権問題と人権擁護団体に対する見方も変ってくる。今日、人権問題が肌 の色だけに限定されると考える人はほとんどいない。実際、女性や障害者、同性愛者、高齢者、子どもなど、あら ゆる人々が、自らの人権を主張している。今回は、NPOとの関係で障害者の人権問題に焦点を当てて考えてみた い。  

聾唖者の組織、National Association of the Deaf(NAD)は、アメリカで最初の障害者団体といわ れている。設立されたのは、1880年。NAACPの結成より、一世代も前のことだ。今日、NADは、2800万人に のぼる聾唖者と聴覚障害者を代表する、全米最大の障害者団体に成長している。  

障害者団体というと、NADのように身体の特定の機能に障害をもつ人々のための組織というイメージが強い。 視覚障害者の団体、車椅子が必要な人々の組織などがこれに当たる。しかし、他にもざまざなタイプの障害をもつ 人々のための組織がある。傷痍軍人や難病に悩む人、精神的な障害をもつ人などがそれだ。  

全米の障害者の数は、4900万人。人口の20%近い数字だ。最大のマイノリティである黒人をはるかに上回る。 にもかかわらず、障害者を代表する組織は、人権擁護運動においてマイノリティ団体より目立たないようにみえ る。その理由のひとつは、障害者が慈悲の対象とみられてきたことと関係があるのではないだろうか。  

障害者は、ひとりでは生活できない。施設に入るのが一番だ。こういう考えが長い間、人々の頭を支配してき た。この通念を覆す上で大きな役割をはたしたのは、自立生活という概念と運動である。その中心になった組織 は、1972年にカリフォルニア州バークレーで生まれたCenter for Independent Living (CIL)である。  

CILは当初、障害者の問題全般を扱っていた。しかし、現在では、障害者の職業、住居など生活上の問題を扱う ようになった。CILから枝別れした組織に、World Institute on Disability (WID)やDisability Rights Education Defense Fund (DREDF)がある。前者は法律相談や訴訟など、後者は調査や研究、政策提言など を行っている。

同じ障害者の問題を扱うのだから、ひとつの団体でやるべきだ、という声も聞かれる。しかし、NPOという立場 からみると、直接サービス、調査研究、法的手段など、事業の性格において、それぞれ高い専門性が求められるた め、特化した方が有利、特化せざるをえないというのが現実だ。  

また、対象とする障害によって、団体が作られることもある。ひとくちに障害といっても、身体的なものと精神 的なものだけでも、大きく異なる。身体でも、視覚、聴覚、肢体など、さまざまな機能がに分けられる。精神的な ものでも、学習障害、知的障害などのカテゴリーがある。  

さらに、今月の特集でも紹介したように、障害をもつ親の子育てに関連した組織なども生まれるようになってい る。差別が表面的に消えつつある今日だが、新たな課題が生まれていることを忘れてはならない。NPOは、これに 柔軟に対応するため、大きな役割をはたしているといえよう。

バックナンバー