今月の論評:
キューバ人系アメリカ人
かしわぎ・ひろし
特集:エリアン事件の展開とキューバ系住民
1. キューバ系アメリカン人のシンボル
"A symbol for Cuban Americans" Sunday, April 2, 2000, San Francisco
Examiner
2. リトル・ハバナの外、キューバ系への異論多数
"Outside Little Havana, Many Beg to Differ" Wednesday, April 12, 2000,
New York Times
3. マイアミのキューバ系、エリアン事件で団結
"Elian Unifies Cuban Americans in Miami" Tuesday, April 18, 2000,
San Francisco, Chronicle
4. エリアン事件で問われる子どもの意見の尊重
"Court's Ruling Is Giving Experts pause About Rights of Childern to
Be Heard" Saturday, April 22, 2000, New York Times
5. マイアミの「救出劇」、新たな対立の序曲に
"Miami Raid Opens a New Front in the Battle for the Cuban boy" Monday,
April 24, 2000, New York Times
ニュース・ファイル
1. 同性愛者による養子縁組、子どもはなおざり
“In Gay Adoption Saga, a Child Left Behind” Monday, April 3, 2000,
San Francisco Chronicle
2.ミランダ法の是非めぐり議論
"Challenge of Miranda Law Reignities an Old Debate" Friday, April
7, 2000, Wall Street Journal
3. 高齢就労者への社会保障給付減額措置を撤廃
"Clinton signs law that removes Social Security earning penalty" Saturday,
April 8, 2000, San Francisco Chronicle
4. 福祉受給者によるスト破り就労で議論
"Welfare Workers Inadvertently Recruited for Strikebreaking Jobs"
Saturday, April 8, 2000, New York Times
5. 障害児の転校問題をめぐり抗議行動
“Rally at Oakeley School for Disabled Boy” Tuesday, April 18, 2000,
San Francisco Chronicle
6. キリスト教各宗派、貧困救済に団結
"Christian Groups Unite to Help Poor" Friday, April 21, 2000, San
Francisco Chronicle
7. 地震で崩落した高速道路跡地、再開発の焦点に
"Site of quake-toppled freeway viewed as path to redevelopment" Saturday,
April 22, 2000, San Francisco Chronicle
8. ロ州上院、戦時強制労働補償法案を可決
“Rhode Island Senate Passes Bill to Allow Wartime Labor Suits” Friday,
April 28, 2000, Nichibei Times
9. ナチ時代の強制労働補償基金、米企業が計画
"A Fund Is Planned By US Companies For Nazis' Victims" Saturday, April
29, 2000, New York Times
10. 白人男性が5人を射殺、憎悪犯罪か
“Racial shooting rampage kills five” Saturday, April 29, 2000, Sacramento
Bee
今月の論評: キューバ系アメリカ人
かしわぎ・ひろし
母親とともにキューバを脱出、フロリダ沖で救出されたエリアン・ゴンザレス君は、5ヶ月間にわたりマイアミ
の親類に保護されてきた。しかし、司法省移民帰化局が武装部隊を投入して、親類宅を急襲。エリアン君は、キュ
ーバからかけつけた父親の元に戻され、この問題は、大きな山を越えた。
当初、キューバ系アメリカ人の多くは、エリアン君の本国送還を支持していた。しかし、徐々に、エリアン君を
米国内に留めておくべきだとする意見に統一されていった。マイアミなど、キューバ系の人口が多い地域では、本
国送還に反対する行動を展開。メディアも、彼らの姿を連日のように報道した。
しかし、キューバ系アメリカ人の実態については、ほとんど紹介されなかった。日本でも、エリアン君の救出劇
は、報道された。だが、キューバ系アメリカ人について伝えられたか疑問だ。そこで、今回は、キューバ系アメリ
カ人について、紹介したい。
1990年の人口統計調査によると、全米のキューバ系アメリカ人は、104万人。総人口の0.4%にすぎない。ニ
ューヨーク周辺などを除くと、キューバ系アメリカ人の人口が集中しているのは、マイアミを中心にしたフロリダ
州南部である。
キューバ系アメリカ人に対して、多くのアメリカ人が抱いているイメージは、キューバのカストロ首相憎しにこ
り固まった人々というものだ。キューバから小船に乗り、フロリダ沖を漂流している人々の姿と、口々にカストロ
批判を繰り返す姿を映したメディアの影響も大きいのだろう。
1980年、キューバ系アメリカ人の5人に4人 は、外国生まれであった。1990年に、この割合は、4人に3人に減少。現在、、この割合がさらに下がっているこ
とは確実である。キューバ系アメリカ人社会で、第二世代が着実に増えているのだ。
第一世代と第二世代の意識には、大きな相違がある。アイデンティティの問題は、そのひとつだ。第一世代で自
らをアメリカ人とみなしている人は、1割にすぎない。しかし、第二世代では、4割に達している。また、第一世
代の9割以上は自らをキューバ人とみているが、第一世代では7割にすぎない。
興味深いのは、人種差別に対する認識の差である。第二世代では、4人に一人が差別
を経験したと回答。しか し、第一世代では、1割にすぎない。また、キューバ系への差別
があるかどうかでも、認識の差が大きい。差別が あるとする第一世代は27%だが、第二世代では半数以上が差別
があるとしている。
このことは、第二世代が恵まれた環境にないことを意味しているのではない。第一世代に比べ、第二世代は、教
育や所得のレベルがかなり上だ。一般のアメリカ人と比較しても、遜色ないか、超える状態になっている。
アメリカナイズが進み、豊かさになっていても、差別を感じるキューバ系アメリカ人。これはキューバ系にのみ
特徴的なことなのだろうか。同化や豊かさが進むにつれ、人権感覚が失われてくるという意見がある。しかし、現
実には、逆のような気がする。
自らをアメリカ人と認識するということは、アメリカ人として平等の権利をもつことを当然とみなすことでもあ
る。逆に、自分をキューバ人とみなしていれば、異なった対応をされても差別
と意識しないかも知れないからだ。
エリアン君の本国送還に90%を超えるキューバ系アメリカ人が反対していた。メディアは、反対の背景に、反
カストロ感情があるとした。しかし、キューバ系アメリカ人の世代ギャップを超えた意見の一致には、いくつかの
異なった理由があるのではないだろうか。
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