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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
1999年5月号

今月の論評: 高校生の銃撃事件で知るNPOの役割と複雑さ

かしわぎ・ひろし

特集:少年と銃犯罪−心の問題と銃規制

1. 子どもの犯罪防止のため、警戒信号に要注意
"Support Services Thin, But Kids Can Be Helped" Thursday, April 22, 1999, San Francisco Chronicle

2.インターネット上の憎悪サイトの問題が急浮上
"Boys' Web Site Illustrates How Hate Is Finding a Voice Online" Friday, April 23, 1999, San Francisco Chronicle

3. 少年の銃犯罪へのメディアの影響が議論に
"Root of Youth Violence Scrutinized" Saturday, April 24, 1999, San Francisco Chronicle

4. 大統領、銃犯罪で親の責任を問う法案提出
"Clinton's New Gun Proposals Include Charging Parents of children Who Commit Crimes" Tuesday, April, 27, 1999, New York Times

5. メーカー側、銃規制に柔軟な姿勢
"Firearms Makers Soften Stance On Gun Control "Wednesday, April 28, 1999, Wall Street Journal

6.銃規制要求団体、規制策めぐり意見対立
“Gun Control Advocates Split on Tactics for Goals" Thursday, April 29, 1999, New York Times

ニュース・ファイル

1.地域警備団体、首都で高校生をリクルート
“D.C. Teenagers Recruited by Leader of the Guardian Angels" Friday, April 2, 1999, Washington Post

2. 強姦トラウマ克服のための会議開催へ
"Women Are Speaking Out to Heal Trauma of Rape" Sunday, April 4, 1999, New York Times

3.EEOC、政府事業契約の差別調査権を労働省に
“EEOC Gives Labor Department Power To Seek Damages in Worker Bias Cases" Thursday, April 8, 1999, San Francisco Chronicle

4.裁判所の保育所、カリフォルニア州全体に
"A Civil Place for Kids" Wednesday, April 9, 1999, San Francisco Chronicle

5.アーカンソー州、少年犯罪に対して州法改定
“Arkansas Tempers a Law On Violence by Children" Sunday, April 11, 1999, New York Times

6. グラム上議、CRA弱体化ねらう
"Gramm Crusades to Overturn Community Lending Act" Monday, April 19, 1999 Wall Street Journal

7. シスコの人種別入学枠撤廃、依然残る問題
"Judge Gives Final OK to Ending Race Caps" Thursday, April 22, 1999, Asian Week

8.コカコーラの黒人従業員、人種差別で提訴
"Suite Is Filed Against Coke by Current, Past Employees Who Allege Racial Bias" Monday, April 26, 1999, Wall Street Journal

9. マイノリティ団体、提案 187で副知事を支持
"Minority Rights Groups Rush to Bustmante's Side" Thursday, April 29, 1999,San Francisco Chronicle

今月の論評: 高校生の銃撃事件で知るNPOの役割と複雑さ

かしわぎ・ひろし  

コロラド州デンバーの郊外にあるコロンバイン高校で、銃や爆弾で武装したふたりの生徒が多数を殺傷した事件 は、日本でも大きく報道された。その論調は、いつもながらの「銃を野放しにして危険なアメリカ」、というもの だ。  

しかし、銃は、野放しではない。規制を求めるNPOも少なくない。とはいえ、すべてのNPOが銃規制を求め ているわけではない。銃問題と一緒に必ず名前がでてくる、National Rifle Association (NRA)もNP Oである。また、銃規制への方法について、NPOのなかに意見の違いがみられる。  

事件の原因を銃の存在だけに帰するのは、単純すぎる。銃がなければ、あれほど多数の死傷者がでなか ったことは、事実だ。とはいえ、彼らが銃を手にした理由は、そこに銃があった、というだけではないだ ろう。ここで、病んだ少年の心をいやす存在としてのNPOが、クローズアップされている。  

NPOの役割のひとつは、社会変革だといわれている。しかし、従来の社会変革の運動体のように、特 定の方向性をもたない。例えば、死刑廃止を求めるNPOもあれば、犯罪者に厳罰を主張するNPOもあ る。移民の権利を擁護する団体がある反面、移民排斥を主張する組織も存在する。  

銃規制の問題についても、同じことだ。NRAのように自己防衛の権利として銃の所持の正当性を訴え るNPOもあれば、Handgun ControlやViolence Policy Center のように、規制を求めている団体も少な くない。  

NPOの世界の複雑さは、同じ銃規制団体でも考えや戦術が異なることだ。特集の記事でも紹介したが、 Handgun ControlとViolence Policy Centerは、銃メーカーへの対応に関して意見が分かれている。同様 に、銃の所持の権利を主張する団体の間でも、NRAのように強硬派だけでなく、一定の規制を受け入れる姿勢を 示している団体もある。  

アメリカでNPOが発達した理由のひとつに、社会の多様性があげられる。多くの人は、多様性とはさまざまな 人種がいることと思っている。しかし、人種は、多様性の一部に過ぎない。年齢や性別 、性的志向などに加え、さ まざまな社会問題への異なった考え方も含まれる。NPOは、こうした多様性を写 し出す組織といえよう。

阪神淡路大震災の直後、日本では、連邦危機管理局(FEMA)の存在に注目した。しかし、アメリカの災害対 策において、FEMAは、金の出所にすぎず、実行部隊には程遠い。災害対策を担っているのは、Red Crossや Salvation ArmyなどのNPOである。  

コロンバイン高校の事件の直後、少年たちの病んだ心に目を向ける必要性が主張されている。ここでも、政府機 関の役割が期待されているのではない。NPOの活動が焦点なのだ。特集の記事のひとつに10代の暴力問題を扱 うNPOをリストしたものがある。大規模災害の直後、「義援金は次の団体に」と書かれているのと、同様にみる ことができる。  

このリストにあるNPOが提供しているプログラムは、病んだ少年たちへのカウンセリングだけではない。調査 や研究活動、少年たち自身が暴力行為を防止するためのプログラムを学校で行うためのトレーニング・プログラ ム、教師や親に防止策を指導するものなど幅広い。  

リストにはないが、暴力事件の背景にあるといわれる、メディアの問題などに焦点を当てて活動しているNPO もみられる。このように、コロンバイン高校の事件の報道から、私たちは、NPOの役割と複雑さを知ることがで きる。
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