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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2000年7月号

今月の論評: アメリカにおける死刑制度の歴史と問題点

かしわぎ・ひろし

特集:問われる死刑の是非

1. ブッシュ知事、死刑執行延期の可能性表明
"Bush Learning Toward Delay of Execution" Thursday, June 1, 2000, San Francisco Chronicle

2. 下級審の死刑判決、上級審で大半が破棄
"Death Penalty Cases Rife With Errors" Monday, June 12, 2000, San Francisco Chronicle

3. 死刑制度への懸念高まる、カリフォルニア
"Death Penalty Doubts in California" Thursday, June 22, 2000, San Francisco, Chronicle

4. テキサスで死刑執行、最後の再審努力実らず
"Inmate Is Executed in Texas As 11th-Hour Appeals Fail" Friday, June 23, 2000, New York Times

5. 死刑と人種差別の関係、連邦レベルで議論に
"Charges of Bias Challenge US Death Penalty" Saturday June 24, 2000, New York Times

ニュース・ファイル

1. 福祉制度改定、家族関係の改善に寄与
“Changes in Welfare Bring Improvements for Families” Thursday, June 1, 2000, New York Times

2. トヨタの子会社、EEOCと雇用差別訴訟で和解
"EEOC, Toyota Affiliate Settle Sex and Race Bias Lawsuit" Friday, June 2, 2000, Nichi Bei Times

3. ユース・コート、同年代が判決
"Youth Court Of True Peers Judges Firmly" Sunday, June 4, 2000, New York Times

4. 朝鮮戦争後の韓国人留学生、多くは米国に残留
"Many came to US for an educational and never went back" Sunday, June 11, 2000, San Francisco Examiner

5. 雇用差別の訴えを容易に、最高裁が判決
“Justices, in a Unanimous Decision, Make It Easier to Sue for Discrimination on the Job” Tuesday, June 13, 2000, New York Times

6. 無料駐車証明の料金、障害者団体が知事批判
"Disabled sound alarm over Davis legal move" Wednesday, June 14, 2000, Sacrament Bee

7. 奴隷制度への謝罪要求、奴隷解放記念日に
"Slavery Apology Urged on 'Juneteenth Anniversary" Tuesday, June 20, 2000, San Francisco Chronicle

8. 大手生保、黒人への掛け金割増で2億ドル補償
“Insurer Agrees It Overcharged Black Clients” Thursday, June 22, 2000, New York Times

9. フルタイム労働でも貧困生活が増加
"Working Full Time Is No Longer Enough" Thursday, June 29, 2000, Wall Street Journal

10. 反カストロ派のキューバ系団体、守勢に
“Cuban-American Lobby on the Defensive” Friday, June 30, 2000, New York Times

今月の論評: 人種関係再考の動きの広がり

かしわぎ・ひろし  

法律による死刑の歴史は、バビロンのハムラビ法典まで遡ることができる。紀元前18世紀、25の犯罪に対し て、死刑が科せられることが宣言されたのである。以来、死刑は、制度として続いてきた。16世紀のイギリスで は、ヘンリー8世の治世で、7万2000人が死刑に処せられたという。  

当時、死刑が適応される犯罪は、極めて広範囲にわたっていた。例えば、18世紀のイギリスでは、死刑の対象 となる犯罪は、窃盗や木を切り倒すなど、重大な犯罪といえないものも含まれていた。アメリカの死刑制度は、こ うしたイギリスの伝統を強く受け継いだ。  

アメリカの植民地で最初に行われた死刑の記録は、1608年。ジェームスタウンでジョージ・ケンドルがスペイ ンのスパイの容疑で処刑された時だ。1612年には、バージニアで、死刑制度が制定された。葡萄の窃盗、鶏の殺 害、インディアンとの交易なども死刑の対象となった。  

18世紀後半、「罪と罰」の影響もあり、死刑を制限する動きが進んだ。トーマス・ジェファーソンが死刑を殺人 罪と反逆罪だけに制限するようバージニア州の法律を改定しようとしたのは、そのひとつだ。この法案は、一票差 で未成立に終わった。  

1907年から17年にかけて、6つの州で、死刑が全廃された。しかし、ロシア革命に伴う、米国内での革命への 脅威などを理由に、6州のうち5州で死刑が復活。アメリカの歴史で最も死刑が多く執行されたのは、大恐慌が吹 き荒れた1930年代だ。年間平均167人が処刑された。政治や社会の動きと死刑が関連していることを示唆してい る。  

アメリカ人の死刑制度に対する支持率は、長期的にみるとかなり変化している。1936年には、61%が賛成して いたが、66年には42%に低下。しかし、1970年代から80年代、90年代とほぼ一貫して上昇、94年には8割が支 持するまでになった。その後、支持者は減少。現在では66%に留まっている。  

死刑に反対する人々は、少数派とはいえ、常に存在し、現在でも積極的に行動。だが、反対理由は、一様ではな い。当初の反対論は、残虐な刑罰を行うべきではない、というものが中心だ。死刑の対象となる犯罪が多すぎるこ とや、軽度の犯罪で死を迫られることへの批判もあった。

最近の反対論で目立つのは、人種差別との関連や無罪の人々が死刑に処せられる可能性への懸念に基づく主張で ある。1996年1月現在、全米の死刑囚の数は3061人。このうち48%が白人で、黒人は40%に及ぶ。当時の人口 構成をみると、白人74%に対して黒人は12%にすぎず、不均等は明白だ。  

死刑を執行された人と、被害者の関係をみると、もうひとつの人種的アンバランスがある。1973年から96年ま での間に、死刑を執行された白人は、254人。このうち、被害者が黒人だったのはわずか5人。反対に、黒人で死 刑を執行された人は、152人だが、被害者が白人の場合は100件に及ぶ。  

無実の罪で死刑が執行されるのではないか、という懸念は常に存在する。1993年のハレラ対コリンズ裁判で、 最高裁は、無罪を主張する死刑囚の声を最高裁は却下。しかし、人々にこの懸念の存在を知らしめた。ちなみに、 1973年以来、80人の死刑囚が無罪だったとして釈放されている。  

今年1月、イリノイ州知事が死刑執行のモラトリアムを発表。死刑判決に誤りが多く、上級審で覆されるケース が頻発しているなどの事態に対処したものだ。これを契機に、死刑問題が大きくクローズアップされている。世界 人権宣言にも含まれているこの問題の動きを、今後も注視していきたい。
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