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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2001年7月号

今月の論評: 発達障害者への死刑禁止の動きの広がり

かしわぎ・ひろし

特集:発達障害者の死刑をめぐる議論

1. 発達障害の男性に死刑、最高裁が逆転判決
“Justices Reverse Death Sentence of Retarded Man”
Tuesday, June 5, 2001, New York Times

2. 検察当局、発達障害者への死刑禁止に反対声明
“Prosecutors urge Perry to veto bill to an execution of retarded”
Wednesday, June 6, 2001, Houston Chronicle

3.フロリダで発達障害者への死刑禁止法が成立
“Bush Signs Florida Bill to Ban Execution of Retarded Killers”
Wednesday, June 13, 2001, New York Times

4. テキサス州知事の拒否権、ふたつの団体が影響
“2 Groups Help Sway Texas Governor on Veto”
Tuesday, June 19, 2001, New York Times

5. 死刑執行への基準、民間の委員会が提言
“Standards for US Executions Proposed”
Wednesday, June 27, 2001, Washington Post


ニュース・ファイル

1. 黒人奴隷への補償要求の動き、急速に拡大
“Call for Slavery Restitution Getting Louder”
Monday, June 4, 2001, New York Times

2. 雇用差別の補償金の上限を撤廃、最高裁
“Cap Is Lifted on Some Job-Bias Damages”
Tuesday, June 5, 2001, Wall Street Journal

3. フロリダの投票で人種差別、人権委員会が報告
“US Panel sees bias in Florida balloting”
Saturday, June 9, 2001, San Francisco Chronicle

4. マクベイの死刑後、死刑の公正性の議論高揚
“McVeigh’s Execution Refocuses Attention on Fairness of Federal Death Sentences”
Tuesday, June 12, 2001, Wall Street Journal

5. 苦痛軽減措置の不足で高齢者虐待の判決
“Elder-abuse verdict challenges physicians on pain”
Friday, June 15, 2001, San Francisco Chronicle

6. 日系人収容を正当化する決議、市議会が撤回
“Upland City Council Rescinds Resolution Against Japanese Americans”
Tuesday, June 19, 2001, Nichi Bei Times

7. 外国籍の母親をもつ男性の送還、最高裁が承認
“Mother’s status determines citizenship.”
Thursday, June 21, 2001, Asian Week

8. トヨタとの交渉進展、ボイコット延期へ
“Progress Reported in Jackson-Toyota Talks”
Friday, June 22, 2001, Hokubei Mainichi

9. バスツアーで社会変革を学ぶ学生
“Activist Roadshow’s Summer Tour”
Monday, June 25, 2001, New York Times

10. 助成財団、環境保護の新たな担い手に
“Charity is new force in environmental fight”
Thursday, June 28, 2001, New York Times

今月の論評: 発達障害者への死刑禁止の動きの広がり

かしわぎ・ひろし

 同じ人権問題でも、積極的に取り上げられているかどうかに関して、日米の間で大きな差があるものが少なくない。妊娠中絶や死刑制度について、アメリカでは、国論を二分した議論が行われている。妊娠中絶に関していえば、反対派が中絶クリニックの前で、激しいデモを行い、死者がでたことすらある。日本では、妊娠中絶は、議論にすらならない。
 死刑制度についても、アメリカでは、賛否両論が厳しく対立。死刑執行の際には、しばしば刑務所前で抗議行動が行われている。日本では、死刑制度が当然のようにみなされているが、精神障害者などに対する免除をめぐる議論は存在する。特に、今春の大阪の小学校における児童殺傷事件以降、死刑の免除をめぐり議論が生じている。

 アメリカでは、死刑をめぐる議論がかつてない高まりを示している。背景には、3つの要因がある。ひとつは、死刑判決への信頼の低下だ。例えば、1973年以降、誤審で収監されたとみなされ、全米22州の刑務所から釈放された死刑囚は90人を超えている。このため、死刑の執行を一時停止する州も現われた。
 第2の要因は、死刑判決と人種差別にからむ問題だ。同じ程度の犯罪を犯しても、死刑になる確率は、白人よりもマイノリティの方がはるかに高い、という指摘である。統計の取り方によって、この指摘への判断は異なってくる。しかし、マイノリティの間には、白人よりも厳しく罰せられているという認識が強いことは事実だ。
 第3の要因は、特定の人々に対する死刑を認めるかどうかについての議論に関連している。最近、最も注目を集めているのは、発達障害者への死刑を認めるかどうかについてである。今年6月には、フロリダ州で発達障害者への死刑を禁止する法律が成立。また、連邦最高裁も、発達障害者への死刑を認めた控訴審判決を覆す判断を示した。
 一方、テキサス州では、同様の法案に対して、リック・ペリー知事が拒否権を発動した。ブッシュ大統領の地元、テキサス州は、全米で最も死刑執行が多い州である。大統領は、知事時代、死刑制度を強力に擁護。発達障害者への死刑も存続させるべきだとしていた。
 元々、テキサス州は、保守的な風土をもつ。死刑制度についても、圧倒的多数の州民は、支持している。しかし、最近の世論調査によると、発達障害者への死刑を廃止すべきと考えている州民が、全体の3分の2に達していることが明らかになった。ペリー知事は、政治的なカケにでた、といえよう。
 発達障害者への死刑を廃止している州は、フロリダ州を含め15。12年前には、わずか2州だったことを考えると、急速な変化が感じられる。フロリダ州の知事は、ブッシュ大統領の弟のジェブ・ブッシュ氏だ。にも関わらず、法案に署名したことは、時代の流れを敏感に感じ取ったためといえよう。
 フロリダ州やテキサス州の法案では、発達障害を特定のIQレベルにリンクしていない。しかし、通常、IQが70以下であると、発達障害であるとみなされる。裁判では、まず陪審員が被告を発達障害であるかどうか判断。発達障害であると判断されると、死刑判決をだすことはできない。

 なぜ、発達障害者だけが死刑を免除されるのか、という議論は当然ある。現行法の枠内でも、精神的な状況を理由に刑が軽減される措置は存在する。その意味で、この法律に批判的な検察当局の意見も理解できる。特定の人々に限定した禁止策ではなく、死刑制度自体を問う形で問題の解決を期待するというと、空論すぎるといわれてしまうだろうか。


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