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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2000年8月号

今月の論評: 人種関係再考の動きの広がり

かしわぎ・ひろし

特集:複雑さ増す人種関係

1. 南部連合旗、38年ぶりに州議事堂から撤去
"Confederate flag removed from Capital" Sunday, July 2, 2000, San Francisco Examiner

2. 黒人団体、外国人技術労働者の導入拡大を懸念
"Black Coalition Frets Over Influx of Skilled Foreigners" Friday, July 7, 2000, Wall Street Journal

3. 人種的憎悪の象徴、首縄が差別訴訟の焦点に
"Nooses Symbols of Race Harted, At Center of Workplace Lawsuits" Monday, July 10, 2000, New York Times

4. 人種問題への認識、黒人と白人で大きな差
"Poll Finds Optimistic Outlook But Enduring Racial Division" Tuesday, July 11, 2000, New York Times

5. 好景気、黒人に恵み
"Economy a Boon to African Americans" Wednesday, July 26, 2000, San Francisco Chronicle

ニュース・ファイル

1. 障害者団体のセンター作り、スタートへ
“Work Begins On Center For Disabled Services” Tuesday, July 4, 2000, San Francisco Chronicle

2. 日本企業を訴えた元捕虜、議会に支援要請
"Ex-POWs Suing Japan Ask Congress for Help" Wednesday, July 5, 2000, Hokubei Mainichi

3. ストーカーに新たな武器、インターネット
"Stalkers Find a New Tool- the Internet" Monday, July 10, 2000, San Francisco Chronicle

4. 黒人教会で女性主教を選出、213年の歴史で初
"After 213 Years, AME Church Chooses a Women as a Bishop" Wednesday, July 12, 2000, New York Times

5. 銃規制強化団体、NRAをモデルに選挙運動
“Groups Copying NRA Methods For the Election” Monday, July 14, 2000, New York Times

6. CRAローン、一般融資より低収益
"Bank Profit on CRA Loans Found to Be Lagging" Tuesday, JUly 20, 2000, Wall Street Journal

7. デニーズの差別訴訟、連邦地裁が却下
"Denny's Discrimination Lawsuit Dismissed" Thursday, July 20, 2000, Asian Week

8. 移民局による市民権剥奪認めず、控訴裁が判決
“Appeals Court Rules INS Can't Revoke Citizenship” Friday, July 21, 2000, San Francisco Chronicle

9. ミネタ氏が商務長官に、アジア系初の閣僚誕生
"Mineta Officially Takes Office as Commerce Secretary" Saturday, July 22, 2000, Nichi Bei Times

10. 教育機関の多く、障害者差別禁止法に抵触
“Many Schools Falling Short of Compliance” Wednesday, July 26, 2000, San Francisco Chronicle

今月の論評: 人種関係再考の動きの広がり

かしわぎ・ひろし  

ニューヨーク・タイムス紙は6月から7月にかけて、「アメリカにおける人種」という特集を掲載した。この6週間にわたった シリーズでは、20人以上の> 記者やカメラマンが1年間にわたり、全米の学校、教会、職場などで、人種関係の現状を取材。7月 16日には、日曜版に添えられるサンデー・マガジンで も、同じテーマの特集が組まれた。  

法的な人種差別が撤廃されて35年、21世紀を目前にしたいまでも、アメリカの人種問題は、依然として残っている。この人種 問題がどのような姿で残存しているのか。その実態や問題を再検討し、人種関係を改善していかなければならない、という問題 意識を感じさせるものだ。  

アメリカの人種問題は、白人と黒人の問題として語られることが多かった。この現実は、いまでも変わっていない。黒人への 差別が依然として深刻だからである。特集の記事でも紹介したように、いまなお南部連合旗を掲揚している州の議事堂がある。 黒人へのリンチの象徴ともいえる首縄が職場に置かれるという事件も相次いでいる。  

人権問題で最も困難な点は、被差別者同士が反目する状況がしばしばみられることだ。アメリカも例外ではない。特集記事に ある、専門職につく黒人が外国人労働者の導入に反対する姿は、その一例だ。ヒスパニック系の市民が中南米からの移民や不法 入国者に厳しい目を向ける現状は、同じ人種内の問題であるだけに、より深刻である。

同じ人種内の問題は、市民権、すなわち国籍をめぐるものだけではない。男性と女性をめぐっても起こっている。黒人社会に おける男女の教育や経済面における格差は、しばしば指摘されてきた。今月の特集でも、Urbane Leagueの調査結果として、事 態の深刻さが浮き彫りになった。  

もちろん、人種関係が剥き出しの暴力として表面化する事態は、35年前に比べ、はるかに減少した。ヘイトクライム(憎悪犯 罪)が問題になるとはいえ、リンチを当然視しているわけではない。では、人種関係は改善したのだろうか。答えは明らかにイ エスであろう。しかし、多くの問題が残っている。  

ここで興味深いのは、人種関係に関する白人と黒人の認識の差である。特集では、ニューヨーク・タイムス紙の記事を掲載し た。人種関係が良好かといった総合的な設問には、ともにポジティブな意見が強い。しかし、警察の対応など、個別 の問題には 黒人と白人の認識の差が目立つ。  

同様の調査は、1997年に首都ワシントンにある民間のシンクタンク、Joint Center for Political and Economic Studiesも行っ た。この調査では、人種問題に関する白人と黒人、黒人内の意識の差を示す、興味深い結果 をいくつかみることができる。  

例えば、黒人が社会的に向上できないのはその黒人個人の責任と思うか、という問いがある。黒人の男性の52%がノーと答 え、イエスは33%にすぎない。黒人女性の回答は、それぞれ49%と46%と拮抗。白人では、イエスが53%で、ノーは41%に止 まっている。  

黒人内の意識差は、男女間だけにみられるのではない。教育水準や所得差も影響している。大学教育の経験がある黒人は、上 記の質問に対して62%がノーで、イエスは35%。逆に、所得水準が高い黒人の間では、イエスが 57%、ノーが43%だ。  

人種により、経済的、社会的な面を含め様々な格差が存在することは事実である。だが、同じ人種内でも不均衡が存在する。 この不均衡は、人々の意識差も生み出す。複雑化する人種問題に単純な回答はない。冷静に事実を検討する姿勢が重要である。
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