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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2001年8月号

今月の論評: 複雑な様相示す不法滞在者への恩赦

かしわぎ・ひろし

特集:恩赦にゆれる共和党政権と移民社会

1. 不法滞在者合法化の機運高まる
“Momentum grows to legalize migrants”
Monday, July 16, 2001, San Francisco Chronicle

2. 不法滞在者への恩赦、共和党の支持確保が困難
“Bush Faces Tough Job Selling Amnesty to His Own Party”
Tuesday, July 17, 2001, Wall Street Journal

3. 恩赦、ブッシュ大統領にとって大きなカケに
“Amnesty Proposal Is Huge Gamble for Bush”
Tuesday, July 17, 2001, Washington Post

4. カリフォルニア州の前知事、恩赦反対を表明
“Wilson opposes Bush’s immigrant-amnesty proposal”
Saturday, July 21, 2001, San Francisco Chronicle

5. メキシコ系以外の人々、恩赦の適用を要求
“Other Immigrants, Envying Mexicans, Demand a Break, Too”
Thursday, July 26, 2001, New York Times

ニュース・ファイル

1. 日産の自動車ローン、黒人に差別的
“Review of Nissan Car Loans Finds That Blacks Pay More”
Wednesday, July 4, 2001, New York Times

2. 三和と東海の合併による新銀行、NPOに助成金
“Sanwa, Tokai Banks Merge, Give to Community Organizations”
Tuesday, July 10, 2001, Nichi Bei Times

3. 救世軍に差別禁止法の遵守要求、連邦政府
“Charity Is Told It Must Abide By Anti-discrimination Laws”
Wednesday, July 11, 2001, New York Times

4. ブラセロ労働者、戦時中の賃金の補償要求
“Mexican workers seek WWII pay
Sunday, July 15, 2001, San Francisco Chronicle

5. 雇用差別訴訟の控訴審、原告の多くが敗訴
“US Courts Are Tough on Job-Bias Suits”
Monday, July 16, 2001, Wall Street Journal

6. 服装規則で雇用差別訴訟相次ぐ
“Firms get dressing-down over dress codes”
Wednesday, July 18, 2001, USA Today

7. バイリンガルの生徒、大学入試が有利?
“Bilingual students have edge on exam”
Wednesday, July 18, 2001, San Francisco Chronicle

8. カリフォルニア大学、入試制度を変更
“UC widens chance of gaining admission”
Friday, July 20, 2001, San Francisco Chronicle

9. ワークフェア、ローティーンの状況を悪化
“Surprising Result in Welfare-to-Work Studies”
Tuesday, July 21, 2001, New York Times

10. 講和50年に当たり旧日本軍の残虐行為を非難
“San Francisco Peace Treaty -- Activists call for closer look at Japan’s wartime atrocities”
Thursday, July 26, 2001, Asian Week

今月の論評: 複雑な様相示す不法滞在者への恩赦

かしわぎ・ひろし

 不法滞在の外国人に恩赦として永住権を与える大規模なプログラムが実施されたのは、1986年。恩赦と同時に、不法滞在者と承知で外国人を雇った雇用者を罰する制度が導入され、国境警備も強化された。これにより、不法滞在者が減少する、というのが当時の政府の主張であった。
 しかし、連邦労働省の推定によれば、全米の不法滞在者の数は、現在400万人にのぼる。カリフォルニア州だけでも、100万人といわれている。不法滞在者ということばは、犯罪者のようなニュアンスを感じさせないわけでもない。だが、大半は、働いて、税金も納めている、健全な市民である。

 最近、こうした不法滞在者に合法的な居住権を与える恩赦を実施しようという動きが広がってきた。きっかけのひとつは、労働界が恩赦反対から賛成に方針転換したことだ。従来、労働界は、外国人がアメリカ市民の仕事を奪うとして、恩赦をはじめとした寛大な移民政策に反対してきた。
 だが、史上最長の好景気を背景に、人手不足が問題になっても、失業が話題になることは少ない。さらに、労働界では、移民労働者の組織化を重点政策に掲げ始めた。こうしたことから、恩赦を支持する姿勢を打ち出したのである。また、経済界や農場経営者からも支持が広がっている。
 1986年の恩赦は、1982年から継続的に不法滞在している人々すべてを対象とした包括的なものだった。現在、議論されている恩赦は、同様に包括的なものから限定的なものまで幅広い。包括的な恩赦を求めていても、労働界のように、限定的なものから徐々に実施していく考えを認めているところもある。
 部分的な恩赦のひとつ、合法移民家族公正法(LIFE)は、すでに実施されている。昨年12月に成立したLIFEは、1986年の恩赦の申請資格を基本的にもちながら、申請を却下されたり、申請を思い止まらされた人々を救済するものだ。このため、1982年以前に、アメリカに入国していたことなどが求められている。
 LIFEの背景には、1980年代に起こされていた3つの訴訟がある。すなわち、ヒスパニック系の団体などは、1986年の恩赦にあたり、移民帰化局の実施方法に不備があったと指摘。恩赦を受けられなかった人々への救済を求めていたのである。LIFEの恩赦の対象者は、64万人にのぼるとみられる。
 法律の適用を受けるには、2001年4月末までに移民帰化局に申請資格を伝えなければならないことになっていた。だが、多くの人々が期限内に申請を行えなかったとみられている。このため、連邦議会では、申請期限の延長を審議しているところだ。
 もうひとつ検討されているものに、メキシコ出身の不法滞在者に限定した恩赦がある。ブッシュ政権とメキシコのフォックス大統領が、連携して進めているものだ。全米に300万人いるといわれるメキシコ出身の不法滞在者に、一時的な就労資格を認め、最終的には永住権を付与することがねらいだ。
 メキシコ出身者に限定した恩赦は、米墨間の経済的関係全般にわたる協議の一部として提案されているものである。ブッシュ政権は、メキシコをアメリカの経済圏により強く組み込むことや、国内のヒスパニック系の票を期待している。だが、身内の共和党からも、保守派を中心に批判の声が強い。
 
 このように、不法滞在への恩赦は、さまざまな政治的な思惑もあり、複雑な様相を示している。元々、不法滞在者の問題は、大きな経済格差や合法的な移民の制約などが背景にある。こうした問題を放置したままだからこそ、恩赦が小手先の療法に終わり、移民社会にも混乱をもたらしているのだ。



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