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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
1999年8月号

今月の論評: 人権問題からみる地域経済開発

かしわぎ・ひろし

創刊10周年記念特集号:マイノリティの経済的権利と地域開発

1. クリントン、貧困地域への関心喚起
"Clinton Turns His Attention to Poor Communities" Monday, July 5, 1999 San Francisco Chronicle

2. クリントン、貧困地域のビジネス促進を提唱
"Clinton Plan To Promote Business in Poor Areas" Wednesday, July 7, 1999, San Francisco Chronicle

3. 貧困地域視察終盤に、難題は議会の説得
"As Clinton Poverty Tour Nears an End, A Tough Task Looms: Selling Congress" Thursday, July 8, 1999, Wall Street Journal

4. 大統領の貧困地域視察、ロサンゼルスで終了
"Clinton Ends His Poverty Tour With Visit to LA's Underbelly" Friday, July 9, 1999, San Francisco Chronicle

5. 大都市の起業家援助計画、財務長官が発表
"In Harlem, New Treasury Chief Unveils Plan to Help Inner-City Entrepreneurs" Friday, July 9, 1999, New York Times

6. ハーレムの黒人銀行、経営難に
"A Pillar of Harlem, Eroded by Inertia" Sunday, July 11, 1999, New York Times

7. マイノリティに最高の企業、ユニオン銀行に
"Union Bank Ranks Top in Fortune Magazine's 'Best Company' for Minorities " Wednesday, July 14, 1999, Nichi Bei Times

8. バンカメ、低所得者向け住宅に多額の融資
"B of A's burst of loans" Sunday, July 18, 1999, San Francisco Examiner

9. HP社に女性CEOが誕生
"Computer Giant Picks Woman CEO" Tuesday, July 20, 1999, San Francisco Chronicle

10. ヒスパニック系への奨学金に多額の寄付
"Big Gift to Hispanic College Fund" Wednesday, July 21, 1999, San Francisco Chronicle

11. リーバイス、反搾取労働運動に参加
"Levi's Joins War Against Sweatshops" Wednesday, July 21, 1999, San Francisco Chronicle

12. 地域再投資法の将来、上院の批判で暗雲漂う
"Law Requiring Banks to Aid Poor Communities Faces Uncertain Future as Gramm Mounts Attack" Tuesday, July 27, 1999, Wall Street Journal

13. 低所得者地域で3年ぶりにスーパーオープン
"West Oakland shoppers can hardly wait for new grocery store to open" Wednesday, July 28, 1999, San Francisco Chronicle

14. コンピュータ付低所得者住宅、今日オープン
"Acorn Housing Residents Get Bonus of Computer Learning" Thursday, July 29, 1999, San Francisco Chronicle

15. 低所得者地域の経済開発に巨額の助成金
"San Jose, West Oakland neighborhoods give million-dollar makeover grants" Friday, July 30, 1999, San Francisco Chronicle


今月の論評: 人権問題としての地域経済開発

かしわぎ・ひろし  

ジョン・ケネス・ガルプレイスが「豊かな社会」を著したのは、1958年。アメリカが貧しさから決別 したこと をうたった同書が出版されてから、40年。世界経済における一人勝ち、空前の好景気、止まるところを知らない 株価の上昇・・。こうしたアメリカの今日を形容することばは、レーガン元大統領の「われわれは貧困との闘いに 勝利した」ということばが現実のものになったように感じさせている。  

しかし、アメリカではいまでも、貧しさに苦しむ人々と地域が存在している。7月初旬、4日間にわたったクリ ントン大統領の全米各地における貧困地域の視察は、アメリカの都市も農村も、貧しさから解放されていないこと を改めて人々に印象づけた。クリントンが訪れたのは、アパラチアと呼ばれる南の貧困地域、サウスダコタのイン ディアンの居留地、ロサンゼルスのワッツなどだ。  

政治家のビヘイビアを通じて、貧困問題が社会の表面に登場したのは、これが初めてではない。ニューディール 時代、ルーズベルトは、インディアン居留地を訪問。1960年代に偉大な社会計画を掲げたジョンソンは、アパラ チアを訪れた。大統領ではなかったが、有力な上院議員のロバート・ケネディは、ニューヨークやミシシッピのデ ルタ地帯の貧困地域を視察、貧困との闘いの重要性を訴えた。  

クリントンは、これまで貧困の問題はほとんど触れてこなかった。ミドルクラスが支持基盤のこともあるだろ う。また、彼の政策が生活困窮者を擁護するものでなかった。生活保護家庭に大鉈をふるった社会福祉法の「改 正」を行った大統領だ。自らの治政下で、貧困世帯の割合は、15.1%から13.3%に低下したことを誇っている人 でもある。  

この大統領が突然,貧困地域の視察に乗り出した。その政治的動機をいぶかる声も聞かれる。とはいえ、貧しい 人々と地域の現実が全米の注目を集める効果をもったことは事実である。貧困問題を訴える人々は、この機会を最 大限利用すべきだろう。また、貧困解決に向けた投資を未開拓の市場への投資というビジネスチャンスとして訴え た大統領の姿勢も、基本的に評価すべきと思われる。

全米最大の黒人街、ブルックリンのベッドフォードを訪れたとき、ロバート・ケネディの胸像を目にした。 1967年に彼がこの地を訪れたことをきっかけに、地域開発法人(CDC)と呼ばれるまちづくり団体が作られた。現 在、全米には、大小3000ものCDCが活動。CDCは、低所得者向け住宅などの建物の設計、施行、管理も行ってい る。  

今月号の記事の多くは、このCDCの活動を紹介したものだ。ご覧いただければおわかりになるように、CDCは単 独で事業を行っているわけではない。 行政や企業とのパートナーシップ、さまざまな住民団体との協力、助成団体の財政的援助などを受けることで、団 体の力量をはるかに超える事業を可能にしているのだ。  

このような協力関係が生まれる背景には、制度的な支えがある。地域再投資法という銀行に地域貢献を求める法 律はそのひとつだ。コンピュータメーカーの創業者の財団が多額の助成をする背景には、資産の5%を助成金とし て出させる規定がある。貧困地域の開発は、まぎれもなく人権問題だ。これを円滑に進める社会のシステムが必要 なのである。    


今月は、本誌創刊10周年を迎えます。10年間にわたり本誌を刊行できたのは、ひとえに皆様のご支援のお陰と 感謝しております。また、本誌の制作にご協力いただいている人もいます。特に,過去1年間、ミルズ大学卒業の 松井香奈枝さんには、大変お世話になりました。
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