今月の論評:
マイノリティ企業の受注制度、危機に直面
かしわぎ・ひろし
特集:FBI、マイノリティ企業の受注問題で捜査
1. FBI、シスコの人権委員会を立入禁止措置に
"FBI seals off SF agency" Sunday, August 1, 1999, San Francisco Examiner
2. シスコの人権委員会、待ち伏せ攻撃に
"SF Rights Commission Ambushed" Thursday, August 19, 1999, Asian Week
3. シスコの事業契約問題への捜査の背景
"Behind FBI Probe of SF Contract" Friday August 20, 1999, San Francisco
Chronicle
4. 空港の事業契約問題、BARTも独自調査
"BART Check Its Minority SFO Contracts" Friday, August 27, 1999, San
Francisco Chronicle
5. 人権委員会の不正疑惑、市長が調査団設置
"Brown Begins Own Probe OF Contracting" Tuesday, August 31, 1999,
San Francisco Chronicle
ニュース・ファイル
1. 職場の人種差別発言禁止、州最高裁が合憲判決
"Court Backs Ban on Racial Slur at Work" Tuesday, August 3, 1999,
San Francisco Chronicle
2. モーテルの開設に反対、ブロンクスで住民団体
"Community Fights Its No-Tell Neighbors" Wednesday, August 4, 1999,
New York Times
3. 日系ペルー人の補償訴訟、判決延期へ
"Judge Delays Jurisdiction Case for JLA Internees" Thursday, August
12, 1999, Asian Week
4. 銃撃事件への見解、ネオナチがネット上で表明
"Neo-Nazis take to the Net in response to shootings" Sunday, August
15, 1999, San Francisco Examiner
5. ハーレムの再生と黒人文化の継承で議論
"Reinvesting Harlem: When Starbucks and other corporations arrive,
will black culture survive?" Monday, August 16, 1999, San Francisco
Chronicle
6. 基地閉鎖後の小規模事業体の援助に100万ドル
"$1 Million Aid for Small Businesses" Tuesday, August 24, 1999, San
Francisco Chronicle
7. 「慈善の選択」、政治と宗教の分離で議論
"'Charitable Choice' Tests Line Between Church, State" Tuesday, August
24, 1999, Wall Street Journal
8. 人権団体、ディズニーのボイコットへ
"Activists to Seek boycott of Disney Over KLOS Promo" Tuesday, August
24, 1999, Los Angeles Times
9. 日本の戦争犯罪謝罪要求、州議会決議に両論
"Reactions Mixed to Assemblyman's Call for Japanese Apology" Thursday,
August 26, 1999, San Francisco Chronicle
10. 労働者と経営トップの所得格差拡大
"Pay Gap Widens Between Workers, Top Execs" Monday, August 30 1999,
San Francisco Chronicle
今月の論評: マイノリティ企業の受注制度、危機に直面
かしわぎ・ひろし
アメリカ西海岸で第四の都市、サンフランシスコ。ゴールデンゲートと霧の都ということばから、観光都市のイ
メージが強い。だが、レフトコーストと呼ばれることもある。レフト、すなわち左派的な考えの人が多い、という
意味だ。実際、全米的に保守派が伸張しているにもかかわらず、この都市では、共和党が異端視されている感すら
ある。
サンフランシスコは、労働者や市民の権利擁護運動でも伝統のある都市だ。人権問題も例外ではない。マイノリ
ティや女性、障害者に加え、同性愛者の問題に関しても、いち早く同性愛者のカップルをドメスティック・パート
ナーとして夫婦と同様の地位を保障する条例を制定したことでも知られている。
差別の是正を積極的に進めるアファーマティブ・アクションに対して、全米的に批判の声が拡大。カリフォルニ
ア州では、数年前、この制度を廃止するための住民提案が投票に付された。州全体で6割近い支持を集めて成立し
たが、サンフランシスコではアファーマティブ・アクションの継続を求める声が圧倒的多数を占めた。
アファーマティブ・アクションには、いくつかのタイプがある。最も重要な形は、行政が企業に事業委託を行う
場合、雇用や下請け関係などでマイノリティや女性の採用を求めるものだ。例えば、行政の事業に入札する際、企
業は、従業員の一定の割合がマイノリティや女性であることや、下請けにマイノリティ企業(マイノリティや女性
が経営する事業体)を含めていることが条件づけられる。
サンフランシスコでは、この作業の中心に人権委員会がある。市が発注する事業におけるマイノリティ企業への
下請け割合の決定と確認は、次のようなプロセスで実施されている。
1) 事業を発注する省庁に企業が入札を行う。
2) 入札は人権委員会に回され、下請けにおけるマイノリティ企業の割合が決定される。
3) 入札を行った企業が指定したマイノリティ企業が適切であるかどうか、人権委員会が判断する。
4) 市の司法省が事業契約の法的な書類を作成する。
5) 市議会の承認をへて、入札が許可される。
このように、人権委員会は、市の事業を受注する企業がマイノリティ企業に下請けにだす割合と下請けにだすマ
イノリティ企業の的確性を判断する権限をもつ。しかし、事業そのものの発注を行っているわけではない。このプ
ロセスで大きな関心を集めたケースに、三菱重工がからんだ入札があった。
三菱重工が入札したのは、サンフランシスコ国際空港付近に設けられる鉄道の駅から空港までピープルムーバー
と呼ばれる交通システムを建設するものだ。総額1億ドルを超える大型プロジェクトを落札したものの、人権委員
会に提出した下請けとして用いるマイノリティ企業が適正なものでないと判断され、土壇場で受注を逃すという事
態に至った。
政府は、正しくなければならない。日本では小学生でも笑い出してしまうような言い方だが、アメリカでは、こ
のことばを真剣に現実のものにしようとしている。アファーマティブ・アクションは、そのひとつだ。とはいえ、
アファーマティブ・アクションも人が作り出したものだ。完璧な制度ではない。
マイノリティ企業の外見を装い、事業を受注しようとする例もある。その結果
、白人だけでなく、マイノリティ からも批判がでる。特集で紹介した人権委員会への連邦捜査局の捜査は、マイノリティ側からの訴えがきっかけに
なったものだ。しかし、それにより、アファーマティブ・アクション自体が危機に直面
している。全体の政治状況 を見誤ったともいえる事態だが、今後の進展を見守りたい。
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