今月の論評:
ネーダー選挙にみる環境派と人権派の対立
かしわぎ・ひろし
特集:人権団体、緑の党とネーダーに批判的
1. マンハッタンを縦断、ネーダー氏が大企業批判
"Crisscrossing Manhattan, Nader Criticizes Corporate Misdeeds" Friday,
September 1, 2000, New York Times
2. 女性と同性愛団体、ネーダー氏を批判
"Women, Gays Say Nader Not Defending Their Rights" Thursday, September
4, 2000, San Francisco Chronicle
3. ネーダー氏、女性の権利擁護の実績強調
"Nader Defends Record on Women's Rights" Friday, September 15, 2000,
San Francisco Chronicle
4. マイノリティ団体、ネーダー批判に合流
"Minority Coalition Joins Criticism of Nader" Monday, September 18,
2000, San Francisco Chronicle
5. ネーダー氏、支持率は低下し動員力は拡大
"Nader Fades in Polls but Draws Crowds" Sunday, September 24, 2000,
New York Times
ニュース・ファイル
1. カジノブームでインディアンの貧困と失業減少
"Casino Boom Helps Tribes Reduce Poverty and Unemployment" Sunday,
September 3, 2000, New York Times
2. 外国人労働者数、70年間で最大に
"Foreign Workers at Highest Level in Seven Decades" Monday, September
4, 2000, New York Times
3. 女性、マイノリティ候補の議会選挙状況
"Women, Minorities Contest New Terrain in House Races" Tuesday, September
5, 2000, Los Angeles Times
4. アジア系の人口、SFで白人を超える
"Asian Americans Expected to Outnumber Whites in San Francisco" Thursday,
September 7, 2000, Asian Week
5. 米国三菱のセクハラ、依然として深刻
"Bias claims dog auto maker" Sunday, September 10, 2000, San Francisco
Examiner
6. 労働省、ユニオン銀行の雇用政策を表彰
"Labor Dept. Honors UBOC for Employment Practices" Thursday, September
14, 2000, Hokubei Mainichi
7. 幼い子どもをもつ母親への求人競争激化
"Employers Now Vie to Hire Moms With Young Children" Tuesday, September
19, 2000, Wall Street Journal
8. 高齢者虐待に対応、地検が担当班編成
"DA teams targeting abuse against elders" Friday, September 22, 2000,
Sacramento Bee
9. 未成年入館制限映画の広告規制、業界が提示
"Hollywood to Offer Restrictions on R-Movie Ads" Tuesday, September
26, 2000, San Francisco Chronicle
10. 奴隷制めぐりソースのボイコット広がる
"Sauce Is Boycotted, and Slavery Is the Issue" Friday, September 29,
2000, New York Times
今月の論評: ネーダー選挙にみる環境派と人権派の対立
かしわぎ・ひろし
日本でも知る人が少なくない消費者運動家、ラルフ・ネーダー。彼はいま、緑の党の大統領候補として全米各地を遊説してい
る。各地で他の候補を大きく上回る大衆動員に成功した反面、支持率は低迷、2004年の大統領選挙で緑の党が連邦政府から政党
補助を受ける資格をもつ5%の得票が可能かどうかすら、微妙な情勢だ。
ネーダーの支持率低迷には、ふたつの要因があると思われる。ひとつは、二大政党を前提としているアメリカで、メディアの
注目や資金が集まらないことだ。もうひとつは、ネーダーの支持基盤であるリベラルな人々や団体のなかに、環境派と人権派と
もいうべき対立があり、リベラル勢力の結集がはかれないことである。
民主、共和両党が予備選挙を行っていた当時、ネーダーは、世論調査で10%を超える支持を集めたこともあった。しかし、支
持率の高まりに対して、労働界や人権擁護団体は、ネーダー支持は共和党を利するだけと主張。二大政党が候補者を決定、ネー
ダーの支持率が低迷してからも、女性やマイノリティ団体からネーダー批判が続いている。
ラルフ・ネーダーは、1934年、コネチカット州ウインステドで生まれた。両親は、レバノンからの移民だ。プリンストン、ハ
ーバードという東部の有名大学を卒業、弁護士の道を歩み始めたが、1963年、転進。1965年、全米最大の自動車メーカー、GM
の安全性を批判する著書を発表、一躍その名を全米に知らしめた。
消費者関係や環境保護問題に取り組むNPOを数多く設立するうえで尽力したことで知られるネーダーだが、人権問題には、特
筆すべき業績は残していない。選挙公約をみると、アファーマティブ・アクションの擁護、妊娠中絶の権利を守るなどとしてい
るが、取って付けたような感がしないでもない。
緑の党にしても同様のことがいえる。西ドイツの緑の党の成功に触発されて、緑の委員会という名称で設立されたのが1984
年。1990年には、党の綱領ともいうべき緑のプログラムを採択。現在では、全米50州のうち46州に活動を展開するまでになっ
た。党として、女性の権利や人種民族の多様性の重要性を謳っているものの、力点は環境だ。
ネーダーのランニングメイトは、ウィノナ・ラデュク氏。インディアンで女性の同氏を副大統領候補にすえたのは、女性や人
権政策への弱さを補うためともみえる。だが、問題は、ラデュク氏が実績をもつ人物かどうか、という点ではないだろうか。
ラデュク氏は、ミネソタ州北部のホワイト・アース居留地で生まれた。ハーバード大学を卒業、1995年には、タイム誌から
「将来の50人の指導者」のひとりに選ばれた。1997年には、ミズ誌から「この年の女性」に選出されている。インディアンの環
境問題や女性問題にも関わりがある。1996年にも、ネーダーのパートナーとして出馬した。
環境や消費者を保護する運動もマイノリティや女性の公民権を守る闘いも、1960年代から大きく広がったものだ。しかし、時
代の同一性があるからといっても、人脈や理念を共有しているとは限らない。環境や消費者運動は、リベラルな白人男性が主導
した。ネーダーは、その最たるものだ。
マイノリティや女性の運動は、独自の道を歩んできた。リベラルな白人男性への懐疑心や競争意識もある。極右のブキャナン
候補(改革党)も黒人女性を副大統領候補にすえるように、多様性が重視されているアメリカ。この国で、多様性を最も強く主
張している環境派と人権派が対立してる事実は、多様性の問題の複雑さを如実に示している。
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