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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
1999年10月号

今月の論評: 高齢者問題の焦点、女性

かしわぎ・ひろし

特集:新しい高齢者像と深刻化する高齢者問題

1. 退職後はボランティア活動を希望、調査で判明
"Older People Want to Work In Retirement, Survey Finds" Thursday, September 2, 1999, New York Times

2. サンフランシスコの高齢者人口、20年で倍増
"Bay Area's population of seniors will double in 20 years預nd families must adjust" Wednesday, September 8, 1999, San Francisco Chronicle

3. 高齢者医療保険問題の焦点、女性に
"The Debate on Aid for the elderly Focuses on Women" Monday, September 13, 1999, New York Times

4. 高齢者の精神衛生問題急増、専門家が警告
"Big Rise Forecast in Mental Illness among Elderly" Wednesday, September 15, 1999, San Francisco Chronicle

5. 社会保障制度改革見送りで高齢女性の希望消失
"Old Women's Hope Fades for Social Security Overhaul" Friday, September 24, 1999, Wall Street Journal

ニュース・ファイル

1. 賃金格差拡大、若年労働者に失望感拡大
"Wage gaps widen: Economic change shuffles the prosperous and the poor" Sunday, September 5, 1999, San Francisco Examiner

2. 強制バス通学、発祥地でも裁判所の廃止命令
"By Court Order, Busing Ends Where It Began" Saturday, September 11, 1999, New York Times

3. 人権委員会擁護のデモ実施、サンフランシスコ
"Human Rights Agency Defenders Hold Rally" Tuesday, September 14, 1999, San Francisco Chronicle

4. 連邦地裁、ナチによる強制労働補償訴訟を却下
"2 Judges Dismiss Suits by Survivors of Nazi Camps" Tuesday, September 14, 1999, New York Times

5. アメリカの民族的多様性、さらに拡大
"Census Confirms Nation's Growing Ethnic Diversity" Wednesday, September15, 1999, San Francisco Chronicle

6. ゲイツ氏、マイノリティの奨学金に10億ドル
"Gates Is Pledging $1 Billion For Minority Scholarships" Thursday, September 16, 1999, New York Times

7. 強制労働をさせられた元捕虜、日本企業を提訴
"Former POWs File Suit Against Japanese Firms" Friday, September 17, 1999, Hokubei Mainici

8. 低所得者地域への融資増を銀行に要請、LA市
"LA Moves to Push Banks To Lend in Poorer Areas" Wednesday, September 22, 1999, Wall Street Journal

9. 「性的囚人」陰謀容疑で実業家と弁護士逮捕
" San Jose Man Charged in Prisoner Scheme" Friday, September 24, 1999, San Francisco Chronicle

10. 控訴裁、バイリンガル教育継続要求を却下
"Court Limits Bilingual Education" Tuesday, September 28, 1999, San Francisco Chronicle

今月の論評: 高齢者問題の焦点、女性

かしわぎ・ひろし  

急速に進む高齢化社会への対策のひとつとして、日本では、介護保険が導入された。しかし、高齢者問題が深刻 化していくのは、日本だけではない。ベビーブーマーが高齢者になる、いわゆるシニアブーマーの時代を目前に控 えたアメリカでは、高齢者の所得保障や医療制度をどのようにしていくべきかが国レベルの重要政策課題になって いる。  

高齢者問題の焦点は女性だ、といわれることが多い。多くの高齢者は、日常的な介護を必要とする。その負担の 多くが女性にかかってくるという意味だ。しかし、このことばが別の意味で用いられることがある。男性に比べて 平均寿命が長い女性が高齢化したとき、所得や医療の面で問題に直面しがちだ、という事実だ。 高齢者の生活や 健康への不安を取り除くため、社会保険制度が設けられている。アメリカも例外ではない。まず、20世紀初頭、 他の先進国と同様に、労災保障がスタート。退職者への所得保障は、19世紀末に、ニュージャージー州の教員に 対して作られたのが全米初の制度といわれている。第一次世界大戦後には、公務員への年金制度が一般 化した。  

アメリカの社会保険制度で金字塔といわれるのは、1935年に成立した社会保障法である。退職した高齢者への 所得保障と失業保険を兼ね備えた制度だ。第二次世界大戦後には、障害者年金が導入された。さらに、1968年に は、メディケアと呼ばれる医療保険制度がスタート。65歳以上の高齢者や障害者が所得に関係なく、医療を受け られるようになった。  

しかし、いま、これらの制度は、存続が危ぶまれる状態になっている。いわずと知れた、高齢化社会の進展の結 果である。7600万人といわれるベビーブーマーが高齢化することで、2030年には高齢者の人口が現在の2倍にな る見込みだ。何らの対策も講じなければ、メディケアの原資は枯渇し、社会保障の給付も現状の7割程度までに落 ち込むと予想されている。  

クリントン政権は、今年の年頭教書で、メディケアや社会保障の改革を提案。これらの制度を維持するために、 将来予想される財政黒字の多くを投入するとともに、制度の原資の一部を株式投資などで運用し、収益を高めるこ となどを盛り込んでいる。野党の共和党は、介護者に要する経費や長期介護保険の掛け金を税制控除させることな どを提唱した。

この議論のなかで、女性へのアプローチが活発に行われている。高齢者問題の焦点が女性であることが認識され ているからだ。例えば、65歳から74歳までの年齢層でメディケアを受給している人の54%は女性である。この割 合は、75歳から84歳にでは61%、85歳以上では71%への増加する。  

また、65歳から84歳までの高齢者のうち、年収1万ドル未満の貧困者は、男性が16%であるのに対して、女性 は30%にのぼる。85歳以上になると、それぞれの割合は27%と55%となる。85歳以上の女性の半数が極めて貧 困な生活を強いられているということだ。  

これらの高齢者の大半は、社会保障を唯一の収入減としている。女性の場合、過去に職歴がない、働いていても パートや一時的な就労だったなどのことから、給付金が少なくなりがちだ。配偶者が生存している場合は、それな りの保障があるが、未亡人になると、生活が困窮するということである。  

クリントン政権の改革案も、この点を重視。高齢女性、とりわけ未亡人の生活保障を行うべきと主張。共和党も 原則として賛成だ。しかし、手段となると、一致しない。多くの女性は、働かなかったのではなく、差別 ゆえに、 働けなかったのである。とすれば、その責任を個々の女性に負わせるのではなく、社会的な解決がなされなければ ならないはずだ。
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