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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2000年11月号

今月の論評: 重要性増すマイノリティの票

かしわぎ・ひろし

特集:マイノリティ、NPOと大統領選挙

1. モンタナ州、インディアンの投票が選挙に影響
"Montana Races Reflect New Influence of Indians" Friday, October 6, 2000, New York Times

2. 大統領候補、アジア系関連の問題に見解表明
"Major Party Candidates for President of the US" Thursday, October 19, 2000, Asian Week

3. NAACP、大規模な有権者登録運動開始
"NAACP begins massive drive to register voters" Sunday, October 22, 2000, San Francisco examiner

4. ヒスパニック系の票、大統領選挙で重要に
"Hispanic Voters Take On New Significance in Presidential Politics" Monday, October 23, 2000, Wall Street Journal

5. 有権者登録、受刑者を対象に南部で実施
"Registration Drive Focuses on Jails" Friday, October 27, 2000, San Francisco Chronicle

ニュース・ファイル

1. 銀行がない地域で金融業務、NPOが提供
"Nonprofit Groups Provide Banking For Bankless" Tuesday, October 3, 2000, Wall Street Journal

2. ボーイスカウトの学校使用に反対高まる
"Scouts' Use of Schools Under Attack" Wednesday, October 4, 2000, Washington Post

3. 障害をもつ女性、ミス・アメリカに挑戦
"Miss Iowa Plays Down Disability" Monday, October 9, 2000, San Francisco Chronicle

4. 低所得者への慈善活動、半世紀に
"A half-Century of Charity" Wednesday, October 11, 2000, San Francisco Chronicle

5. 低所得者を援助する教会、政府資金導入に慎重
"Many Churches Slow to Accept Government Money to Help Poor" Tuesday, October 17, 2000, New York Times

6. アジア系へのヘイト・クライム増加
"Audit: More Anti-APA Hate Crimes in 1999" Tuesday, October 17, 2000, Hokubei Mainichi

7. 自動車ローンで人種差別、司法省が日産を提訴
"New Front Opens in Effort to Fight Race Bias in Loans" Sunday, October 22, 2000, New York Times

8. DVによる殺人事件、制度の欠陥を露呈
"Slaying Reveals Faults in System" Tuesday, October 24, 2000, San Francisco Chronicle

9. ナイキ、障害者に差別的な広告を削除
"Nike Rescinds Ad, Apologizes to Disabled People" Thursday, October 26, 2000, Wall Street Journal

10. 看護施設の安全基準違反深刻、政府が報告書
"Study Cites Safety Violations at Nursing Homes" Tuesday, October 31, 2000, New York Times

今月の論評: 重要性増すマイノリティの票

かしわぎ・ひろし  

民主党のゴア、共和党のブッシュ両大統領候補は、史上最大と形容される激しい選挙を戦っている。しかし、投票が行われる のは、大統領の選出に関してだけではない。連邦レベルでは、下院議員の全員と上院議員の約3分の1を選出。さらに、州や自治 体レベルでも、首長や議員、行政のトップを選ぶところが少なくない。  

今回の一連の選挙で、大きな関心を集めているのが、エスニック・ボート、すなわちマイノリティの票、民族票である。民族 票が注目される理由は、大別して3つ。第一は、マイノリティの人口が増大していること。第二は、有権者登録の推進で民族票が 増えていること。第三は、民族票がキャスティング・ボートを握ることが少なくないからだ。

第一のマイノリティの人口増については、改めて指摘するまでもないだろう。アメリカが白人社会である時代は、遥か昔のこ とになった。白人と黒人の社会という認識も、すでに過去の話だ。都市部を中心に、ヒスパニック系やアジア系が急増、マイノ リティ人口全体が増えつづけるとともに、マイノリティ内部での非黒人化が進んでいる。  

今回の大統領選挙で、候補者は、いずれもマイノリティを意識した行動をとった。ゴアが副大統領候補に選んだのは、ユダヤ 系のリーバーマンだ。ブッシュは、当選の暁に黒人のパウエル元統合参謀本部議長を閣僚に含めるといわれている。緑の党のネ ーダーは先住民の女性と、超保守といわれるブキャナンは黒人女性をパートナーに選んだ。  

人口の増加が直ちに投票の増加に結びつかないのは、アメリカの社会と選挙制度の特徴の反映といえる。ヒスパニック系やア ジア系の多くは、移民で、市民権すなわちアメリカ国籍を取得していない人が少なくない。市民権がなければ、選挙権もないこ とになる。さらに、市民権があったとしても、投票できるとは限らない。有権者登録が必要だからだ。  

日本では、選挙になると投票用紙が郵送されてくる。しかし、アメリカでは、有権者登録が必要だ。登録を怠れば、選挙はで きない。マイノリティの登録率は、白人に比べ、かなり低い。英語ができないなどの理由で、登録に積極的でないためである。  

このため、多くのマイノリティ団体は、有権者登録を推進。単なる人口だけでなく、有権者としてのパワーを政治的に発揮す るためだ。例えば、特集の記事にもあるように、今回の選挙でNAACPは、900万ドルを投じ、有権者登録を進めた。同様の動き は、他のマイノリティ・グループも行っている。

第三のキャスティング・ボートを握るということは、マイノリティの投票傾向に関連がある。例えば、1996年の大統領選挙 で、黒人の84%は、民主党のクリントンに投票した。ヒスパニック系の登録有権者を政党別 でみると、民主党41%に対して、共 和党は10%にすぎない。  

法的な人種隔離はなくなったものの、今日でも、マイノリティの多くは、特定の州や地域に居住している。この居住傾向は、 マイノリティがキャスティング・ボートを握ることをうながす。特集の記事にもあるように、全米的にはごくわずかの人口比し かもたない先住民も、モンタナ州の連邦議員選挙や大統領選挙の行方を左右する可能性すらある。  

このように、アメリカの政治のなかで、民族票は、確実に重要性を増している。それは、マイノリティの発言権拡大という意 味で、歓迎すべき現象といえよう。この現象が、マイノリティの地位向上に止まらず、社会的弱者や少数者の声一般 に、為政者 がより耳を傾けていく状況をうながすことにつながることを期待したい。
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