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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2001年11月号

今月の論評:「知られざる被害者」報道に思う

かしわぎ・ひろし

特集:テロ事件の「知られざる被害者」

1. 不法滞在者の遺族、援助要請に不安
"Attack's anonymous victims"
Thursday, October 4, 2001, San Francisco Chronicle

2. 労働組合、テロ事件後の非解雇者に支援開始
"Opening the Door for POW Lawsuits"
Thursday, August 9, 2001, Asian Week

3. メキシコからの労働者、解雇と手入れを懸念
"UAW Pushes for a Vote at Nissan Factory"
Wednesday, August 15, 2001, Wall Street Journal

4. テロ事件の遺族、深刻な生活に直面
"Toyota Earmarks $8 Billion for Diversification Efforts"
Friday, August 10, 2001, New York Times

5. 難民の入国がストップ、テロ事件の影響で
"Jpn. Travel Agencies Asked to Boycott Marriott"
Saturday, August 18, 2001, Hokubei Mainichi

ニュース・ファイル

1. 元駐在大使3人、POW補償法案を批判
"SF Group on a mission to revitalize blighted Sixth St."
Thursday, August 2, 2001, San Francisco Chronicle

2. 労働問題への取り組み、活発に進む
"Donating tax rebates as a protest"
Friday, August 3, 2001, San Francisco Chronicle

3. 死者だした高齢者施設、改善案に州と合意
"Labor Groups Form Anti-Sweatshop Coalition"
Wednesday, August 8, 2001, New York Times

4. 戸別訪問の権利めぐり、最高裁が審理へ
"Worthington clarifies scout stance"
Friday, August 10, 2001, Berkeley Daily Planet

5. 日本人街の保存支援法案に知事が署名
"Bush Delays Offensive Against Affirmative Action"
Monday, August 13, 2001, Wall Street Journal

6. カリフォルニア大学、選抜方式の変更を検討
"Illegal Immigrants May Total 8.5 Million"
Tuesday, August 14, 2001, Wall Street Journal

7. 景気低迷で福祉改定プログラムが危機に
"Head of Religion-Based Initiative Resigns"
Saturday, August 18, 2001, New York Times

8. 全米のイスラム教の信者めぐり議論
"Gay Couples Found to Head More Homes"
Tuesday, August 22, 2001, New York Times

9. 日本企業へのPOW訴訟にゴー
"German American Internment
Tuesday, August 23, 2001, Asian Week

10. 赤十字の会長、義援金集め問題で辞任
"Disparities Seen In Mental Care For Minorities"
Monday, August 27, 2001, New York Times

今月の論評:「知られざる被害者」報道に思う

かしわぎ・ひろし

  サンフランシスコ名物、ケーブルカーの発着地点、ユニオンスクエアから数ブロック歩くと、テンダロ インと呼ばれる地域がある。最近は、やや改善されたものの、ホームレスと麻薬、売春などのイメージが強い貧困地域だ。
  この地域の一角に、Hotel Employees and Restaurant Employees Union (HERE)のサンフランシスコ支部が ある。名前からわかるように、ホテルやレストランで働く人々の労働組合の事務所だ。最近、日本の労 働関係者と一緒に、ここを訪れる機会があった。
  HERE支部の幹部は、組合員の3分の1が解雇されたと述べた。同時多発テロ事件以降、観光客が激 減し、大手のホテルが相次いでレイオフを実施したためである。

  テロ事件以降、アメリカは大丈夫か、という声をしばしば耳にする。たしかに、空港などでは警備が 教化されたものの、街を歩く限り、特別な変化はない。サンフランシスコも同じである。だが、人々の 目に見えないところで、変化は生じているのだ。
  ホテルなどの職場だけではない。テロ事件の被害者の遺族は、ローンの支払いなどで、生活苦に陥っ た人々も少なくない。アメリカ国内の移民や国外から移住を待つ難民にとって、移民への監視強化の動 きが深刻な事態を生じている。
  同時多発テロ事件のニュースは、当初、直接の犠牲者や九死に一生をえた生存者のストーリーに集中 していた。だが、最近、こうした「知られざる被害者」の状況を伝える報道が目立ってきた。
  「知られざる被害者」がテロ事件の被害者であることはたしかだ。しかし、彼らを被害者にしている のは、必ずしもテロ事件ではない。大量のレイオフは、企業救済に熱心でも、労働者への支援に消極的 な政府の政策の結果である。
  ハイジャックした航空機で建物に突入するという前代未聞のテロ行為に、多くの人々は、航空機離れ を起こした。ブッシュ政権は、直ちに航空業界の救済策を決定。しかし、労働者に恩恵は届いていない。 レイオフに見舞われているだけだ。
  事件の犠牲者の遺族が抱える問題は、テロによってもたらされたことは間違いない。しかし、対策の あり方が状況を悪化させているのである。義援金や政府の救援資金がないのではない。適切に配分され ないことが問題なのである。
  例えば、赤十字は、被害者の遺族を1年分も支援できるといわれる義援金を集めた。しかし、支援を 求める人は、予想外に少ない。義援金は、余り、遺族への支援や被害者への救済事業以外に使われよう としている。
  政府の資金は、官僚主義の弊害で、必要なところに遅々として届かない。また、不法滞在者の遺族ら は、援助を求めることで強制送還されるのではないかという懸念から、申請ができないでいるという報道もみられる。

  「知られざる被害者」の被害を、より大きなものにしているのは、こうした問題である。つまるとこ ろ、資金がないのではなく、政府のみならず、民間も被害者に潤沢な資金を適切に配分することができ ないことだ。
  同時多発テロ事件の背景は、一言でいうことは困難である。しかし、グローバル化がいわれるなかで、 極端なまでの経済格差が背景のひとつといわれている。ここでも、資金を適切に配分することができない状況がある。
  「知られざる被害者」報道で、被害者に同情を寄せるだけでなく、この問題こそ考えなければならな いのではないだろうか。

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