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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
1999年11月号

今月の論評: 権利としての医療と医療保険の問題

かしわぎ・ひろし

特集:医療保険制度の問題と改善への道

1. 医療保険未加入者、全米で4400万人に
"More Americans Lack Health Coverage" Monday, October 4, 1999, San Francisco Chronicle

2. 連邦下院、患者の権利拡大法案を通過
"House Passes Broad Patient-Rights Bill" Friday, October 8, 1999, Wall Street Journal

3. 子どもの医療保険加入促進、大統領が提言
"President Urges Government To Reach Uninsured Children" Wednesday, October 13, 1999, New York Times

4. 医療保険未加入の子ども、加州で増加
"Number of uninsured children in California continues to swell" Thursday, October 21, 1999, Sacrament Bee

5. 零細企業の経営者、医療保険のコスト増に懸念
"Small Employers Describe Health Insurance Concerns" Friday, October 29, 1999, New York Times

ニュース・ファイル

1.低所得テナントの貧困脱出にNPOが支援
"Breaking the poverty cycle" Saturday, Oct, 2, 1999, The Sacramento Bee

2. 聾唖者への雇用差別で訴訟、障害者団体
"Local Civil Rights Firm Plans To Sue Target for Deaf Bias" Wednesday, October 6, 1999, San Francisco Chronicle

3. 加州初、同性愛者による商工会議所オープン
"Rainbow Over the South Bay: State's first gay chamber of commerce forms" Saturday, October 9, 1999, San Francisco Chronicle

4.政界で勢力を伸ばすインド系アメリカ人
"Indian Americans beginning to flex political muscle" Sunday, October 10, 1999, San Francisco Examiner

5. マイノリティ企業を再定義、人権団体は反発
“What Is a Minority-Owned Business?”  Tuesday, October 12, 1999, New York Times

6.契約労働者の権利擁護法案、加州で成立
“New law Protects Contract Employees” Wednesday, October 13, 1999, San Francisco Chronicle

7. 従業員の宗教が多様化、悩む企業
"Culture Clash on the Job" Friday, October 22, 1999, San Francisco Chronicle

8. 地域再投資法の弱体化で合意、政府と共和党
“Big Gains By Gramm In Diluting Lending Act" Saturday, October 23, 1999, New York times

9. 連邦ヘイトクライム法強化条項、不成立に
"Hate Crimes Bill Dealt a Blow" Thursday, October 28, 1999, Asian Week

10. オレゴン州、連邦下院の尊厳死法案に反発
"Oregon Chafes at Measure To Stop Assisted Suicides" Friday, October 29, 1999, New York Times

今月の論評: 権利としての医療と医療保険の問題

かしわぎ・ひろし  

ロサンゼルスに住んでいた時、医療関係のNPOに関わったことがある。このNPOは、「医療を受けるのは、特権で はなく、権利である」という立場に立っていた。あれから10年余り、いまでもこのことばを主張しつづけなけれ ばならない状況が存在することに気づかされる出来事が相次いだ。

医療には、膨大なコストがかかる。だれかがそれを支払わなければならない。受益者負担の考えに立てば、診療や 治療を受けた人が払うべきだ。しかし、医療を受けるのは、病気や怪我をしていることを意味する。支払能力のな い事態が予想される。

このため、医療保険制度が作られてきた。だが、アメリカは、先進国で唯一、国民皆保険制度がない。1960年代 に連邦政府による医療保険制度が設立された。いわゆるメディケアだ。この制度の対象者は、高齢者と障害者だけ である。高額の費用が必要になる医療の保障は、保険抜きに考えられない。

国民皆保険がないため、人々は、民間企業が提供する医療保険に加入することになる。しかし、掛け金が高い。低 所得者には、メディケイドと呼ばれる政府の医療補助がある。とはいえ、メディケイドを受けられるのは、4人家 族で年収1万6600ドル未満の極めて低所得の人々だ。

特に問題なのは、勤労低所得者と呼ばれる人々に医療保険がないことである。メディケアの対象者ほど貧しくない が、民間の医療保険に加入する所得がない人たちだ。現在、全米の医療保険の未加入者は、人口の16%にあたる 4430万人。このうち、仕事をしていない人は4分の1にすぎない。

医療保険未加入者の問題は、人種問題ともからんでいる。人口の4分の3を占める白人は、未加入者の1割にすぎな い。未加入者の9割は、マイノリティである。特に、ヒスパニック系は、全体の3分の1。未加入者のうちアメリカ 生まれの人は14%にすぎず、外国籍の人は4割を越えている。

また、医療保険をもたない子どもも多い。1993年には全米で930万人だったが、現在では1100万人に増加。 1997年、連邦政府は、多額の資金を投入し、子ども医療保険プログラムをスタートさせたが、十分な成果 をあげ ていない。

こうした子どもに医療サービスを提供しているNPOもある。バージニア州フェアファックス郡のMedical Care for Children Partnershipは、そのひとつだ。1986年にスタートした当初は、35人の子どもをケアしたにす ぎなかった。現在では、同郡内の1万9000人にのぼる医療保険のない子どものうち、8000人に医療サービスを提 供している。

ロサンゼルスの東、パサデナの公立学校に通う2万2000人児童のうち、3分の1は医療保険がない。1990年、 Young & HealthyというNPOがスタート。家族の所得水準と無関係に子どもが医療を受けられるべきだという だけでなく、医療の提供が地域社会への将来の投資という考えに立ったものだ。

医療保険をめぐる議論は、保険に未加入の子どもだけに集中しているわけではない。現在、アメリカの医療システ ムでは、健康維持組織(HMO)が大きな役割を演じている。医療を受けるため、人々は、HMOに掛け金を払い込 む。HMOは、提携先の医師や病院で患者を受け入れるというものである。  

HMOが提供する医療サービスは、限定的だ。このため、保険と同様に掛け金を払いながら、診療が受けられな いこともある。共和党主導の連邦下院は、同党執行部の意に反して、HMOを訴えることを可能にする法案を可 決。来年の大統領選挙でも主要な争点に浮上。権利としての医療をめぐる議論は、アメリカを揺るがす問題に発展 している。
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