今月の論評:ワークフェア、景気後退で矛盾が表面化
かしわぎ・ひろし
特集:目前に迫った社会福祉制度の再改定
1. 社会福祉制度の再改定、2002年の議会で論議へ
"Welfare reform heading back to Congress next year"
Sunday, November 4, 2001, San Francisco Chronicle
2. 景気後退、加州のワークフェアに打撃
"Welfare-work may be hurt by economy"
Tuesday, November 13, 2001, San Francisco Chronicle
3. フードスタンプから民間の食糧援助へシフト
"Shift From Food Stamps To Private Aid Widens"
Wednesday, November 14, 2001, New York Times
4. リベラル派、社会福祉制度の再改定を要求
"Coalition focusing on downturn in bid to reshape '96 bill"
Thursday, November 15, 2001, Boston Globe
5. ニューヨークで生活保護の打ち切り開始
"Uncertainties Loom as New Yorkers Hit Welfare Time Limit"
Friday, November 30, 2001, New York Times
ニュース・ファイル
1. SF市、NPOの低所得者向け住宅建設にノー
"City rejects nonprofit's proposal for low income SoMa
Housing"
Thursday, November 1, 2001, San Francisco Chronicle
2. ホームレスへの支援拡大、NPOが要請
"Group seeks more support for homeless"
Friday, November 2, 2001, Berkeley Voice
3. 政府の学生ビザ対策、大学関係者から不要との声
"White House Overhaul of Student Visas Is Viewed as
Unnecessary by Colleges"
Friday, November 2, 2001, Wall Street Journal
4. 高校の障害児、卒業試験で便宜の使用禁止
"Disabled high-schoolers may not be able to use aids on exit exame"
Thursday, November, 2001, San Francisco Chronicle
5. 大統領、国内戦線でボランティアの重要性主張
"Bush Urges Volunteerism on Home Front"
Friday, November 9, 2001, Wall Street Journal
6. 救世軍、同性愛のパートナーにベネフィット拒否
"Salvation Army says no benefits for partners"
Wednesday, November 14, 2001, San Francisco Chronicle
7. 高校生の団体、政治意識の調査報告を発表
"Youth Vote Coalition Strives for Political and Educational Goals"
Thursday, November 15, 2001, Asian Week
8. スミソニアン博物館のウエブ、日系人収容を検討
"Smithsonian Web Site Examines JA Internment"
Friday, November 16, 2001, Hokubei Mainichi
9. 職場での障害者へのハラスメント、訴訟が急増
"Employers Increasingly Face Disability-Based Bias Cases"
Tuesday, November 20, 2001, New York Times
10. 根強い偏見に反発、バイカーが差別禁止法要求
"Tired of Stereotyping, Bikers Turn to Law"
Monday, November 26, 2001, New York Times
今月の論評:ワークフェア、景気後退で矛盾が表面化
かしわぎ・ひろし
ワークフェアということばを最初に聞いたのは、1980年代の中頃のことだ。当時、従来のウエルフェア(社会福祉)に代わるものとして、鳴り物入りで、カリフォルニアで導入されたのである。日系の新聞社で働いていた頃のことで、「ワーク」ということばから、勤労福祉と訳したと記憶している。
10年余りたった1996年、連邦議会は、労働機会和解法の成立させた。一般に、社会福祉制度改革と呼ばれている。しかし、社会福祉制度全般を大きく変更したのではなく、扶養児童をもつ家庭への援助(AFDC)を廃止、TANF(必要家庭への一時的援助)に変更したことが中心だ。
ワークフェア、すなわちTANFの対象は、低所得の母子または父子家庭である。ただし、圧倒的多数は、母子家庭のため、ここでは便宜上、母子家庭への生活保護と表現しておきたい。AFDCのもとで、母子家庭は、所得が一定額以下であれば、自動的に政府の保護を受けることができた。
しかし、ワークフェアのもとでは、職業訓練を受けるなり、実際に職についていることが、生活保護受給の条件となる。また、従来、無期限だった支給期間も生涯で5年間に限定された。ただし、行政は、職業訓練を提供したり、仕事を行うための条件整備として、託児所の資金をだすなどの措置をとった。
1996年、リベラルな団体は、こぞってTANFの導入に反対した。AFDCを受けている母親たちは、働き口をみつけられず、子どもとともに路頭に迷うと考えたからだ。しかし、現実は違った。2000年6月現在、TANFの受給者は、580万人と、1996年より700万人も減少したのである。保守派は、これをTANFの成果とアピールしている。
だが、保守派の自画自賛にすぎない。1996年から2000年といえば、アメリカ経済がかつてない好景気を体験していた時代である。人手不足は深刻で、技術や経験のない母子家庭の母親たちの多くが、仕事につけた。また、行政も潤沢な税収により、母親たちを支援することができた。
経済の効果は、大きい。TANFが導入される以前の1994年から96年までの間に、AFDCの受給者は、1400万人から1200万人に減っていたのである。好景気のお陰だ。しかし、いま、景気後退が誰の目にもはっきりしてきた。TANFで仕事をえた母親たちの多くは、レイオフの憂き目にあっている。
仕事がない状況で仕事をしろといっても、無理な話だ。だが、生活保護の受給が生涯で5年と定められたため、政府からの援助を打ち切られる。これは、杞憂ではない。すでに、2001年12月からTANFを打ち切られ、収入が途絶えた母子家庭が全米で問題になっているのである。
生活苦だからといって、財政的な援助を自動的に与えることが常に正しいとはいえない。「福祉漬け」になり、働く意欲を失い、その影響が子どもにも伝わっていくことが少なくないからだ。しかし、TANFは、景気後退の局面では弱者切捨てになることも忘れてはならない。
政府ができなければ、民間がやる。そのためにNPOがあるのではないか、という議論もある。たしかに、低所得者に食糧を提供するフード・バンクや炊き出しを行うスープ・キッチンなどと呼ばれるNPOは、活発に支援を行っている。
だが、民間は政府の隙間を埋めることができても、政府に代わることはできない。働くことで家族の生活を支えることが自己責任のひとつであれば、これを可能にする雇用創出を政府の責任として行う必要がある。ワークフェアの矛盾に直面しているいま、このことを声を大にして叫ぶ必要がある。