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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
1999年12月号

今月の論評: 家族の変化と家族関連の人権問題の複雑化

かしわぎ・ひろし

特集:家族をめぐる問題の変化と政策の混乱

1. 州の育児補助削減、福祉脱却目指す親に危機感
"Parents scramble to handle state cutting aid for kids" Sunday, November 6, 1999, San Francisco Examiner

2. 失業保険を家族休暇手当てに充当、賛否両論
"Dispute Over Plan To Use Jobless Aid For Parental Leave" Monday, November 8, 1999, New York Times

3. 家庭騒動か、高齢者虐待か?
"A Bitter Family Squabble � or elder Abuse?" Friday, December 12, 1999, Wall Street Journal

4. 「養子縁組の日」、137人の子どもが新たな人生
"137 foster children start new life on Adoption Day" Sunday, November 21, 1999, Sacramento Bee

5. 変化する家族、子どもをもつ夫婦26%に
"Only 26% Married With Children" Wednesday, November24, 1999, San Francisco Chronicle

ニュース・ファイル

1. 黒人実業家、起業家志望の若者に財政援助
"Black Entrepreneur Offers Yyouth a Hand" Wednesday, November 1, 1999, Wall Street Journal

2. 同性愛の学生への殺人犯、有罪確定
"Man Is Convicted in Killing of Gay Student" Thursday, November 4, 1999, New York Times

3. レストランのチップ自動加算、差別訴訟に発展
"Restaurant�s Added Gratuity Leads to Discrimination Claim" Wednesday, November 8 1999, New York Times

4. 黒人地方劇場、閉鎖的経営に批判高まる
"Berkeley�s Black Repertory Group faces heavy criticism" Thursday, November 11, 1999, San Francisco Chronicle

5. フロリダ州知事、独自の差別是正措置案提出
"Florida Plan Would Change Admissions Based on Race" Thursday, November 11, 1999, New York Times

6. 住宅ローン黒人に不利、NPOが調査結果発表
"Study Discerns Disadvantage for Blacks in Home Mortgages" Sunday, November 14, 1999, New York Times

7. 労働力不足で精神障害をもつ人々への雇用増加
"Tight Labor Supply Creates Jobs fo the Mentally Disabled" Monday, November 15, 1999, New York Times

8. 連邦地裁、日系ペルー人の訴えを却下
"Judge Throws Out NCRR/Suzuki v. US Suit" Thursday, November 16, 1999, Hokubei Mainichi

9. 生活給要求、各地でさまざまな動き
"Minimum Wages, City by City" Friday, November 19, 1999, New York Times

10. 提案209号批判の助教授、バークレー校を退職
"Critic of Prop. 209 to Quit as UC Berkeley Professor" Thursday, November 25, 1999, San Francisco Chronicle

今月の論評: 家族の変化と家族関連の人権問題の複雑化

かしわぎ・ひろし  

「ご家族は?」  

「夫と子どもふたりです」  

こうした会話は、ごく平均的な家庭をイメージしたものと考えられてきた。しかし、アメリカでは、もはや夫婦 と子どもが一緒に生活している家庭は、全体のわずか4分の1になっている。過去30年間の家族形態の変化をみた うえで、家族をめぐる人権問題が複雑化しているようすを検討してみよう。  

1972年、アメリカの家庭の約半数に当たる45%は、既婚の男女が子どもと一緒に生活しているというものであ った。既婚者で子どもがない家庭も3割を占めたが、未婚で子どもがいない家庭や子持ちの未婚家庭は少数派に属 した。  

しかし、1998年には、様相は一変。未婚で子どもがいない家庭が全体の3分の1を占めた。また、既婚者で子ど もがいない家庭も30%に達している。既婚の男女が子どもと一緒に生活するという、かつてのごく普通 の家庭 は、26%にすぎなくなった。  

これらの数字は、成人したら結婚するものという通念の崩壊に起因している面 も強い。事実、1972年には、成 人の75%が既婚者でった。しかし、1998年には、56%に減少。反面 、シングルペアレントと一緒に生活してい る子どもの割合は、同じ期間に4.7%から18.2%へ急増した。  

「子どものために一緒に生活する」という考えも急速に過去のものになっている。シカゴ大学の調査によれば、 子どもがいる以上、夫婦は一緒にいるべきだとする人は、全体の3分の1にすぎない。3人のうちふたりは、子ど もがいても分かれてもいいと考えているのである。  

旧来の家族形態の崩壊は、子どもの養育責任を果たさない親の増加という側面 でも現れているといわれる。しか し、血縁関係のある親だけが親ではない。里親や養子は、古くからある制度だ。子育てが十分できない親の問題が 指摘される反面、他人の子どもを育てたいと欲する人々も多く存在する。  

こうした人々のために、養子縁組を推進する政策やNPOが増加してきた。カリフォルニア州のように、長期計画 に基づき、各郡ごとに養子縁組の目標値を定めるところもある。ここでもNPOが大きな役割を期待され、またその 期待に応える活動と実績を示している。

連邦政府も、養子縁組を推進するための政策を採用。税制優遇は、そのひとつだ。養子を迎えた家庭に、5000 ドルから6000ドルの所得控除を認める制度は、よく知られている。企業の中には、養子を迎えた従業員の家庭 に、有給休暇や現金支給などをしているところもある。

だが、養子縁組が問題に発展することも少なくない。ジャスティンちゃん事件は、人種問題が絡んだ養子縁組の 難しさを教えた。白人の里親が黒人とヒスパニック系の親の幼児を養子に迎えようとしたが、黒人団体の支援を受 けた遠縁の家族が反発。白人家庭は、裁判費用などで破産状況に陥ってしまった。  

家族形態の変化は、新しい対処方法を要求している。特集でもみたように、生活保護を受けているシングルペア レントの自立支援や、家族休暇制度を実効あるものにするための有給化の財源をどこに求めるのか。痴呆症になっ た高齢者の権利をどう守っていくのか。いずれも、避けて通ることはできない。  

これまで人権問題の大半は、相反する社会的集団の間で生じてきた。家族という社会の最小単位 の中で人権が語 られるところは少なかった。しかし、家庭内暴力に加え、家族に関連して、深刻かつ複雑な人権問題が存在するこ とが明らかになっている。今後、こうした問題にも目を向けていきたい。
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