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第2回アメリカのNPO型高齢者介護研修(現地参加型)
〜 サンフランシスコの「PACEプログラム」から学ぶ〜

シルバー新報
6/24掲載記事
「シリーズ PACE」

第3回
 プログラムの利用者と提供機関

大阪市立大学大学院
教授 柏木宏


 「満55歳以上で、サンフランシスコの東湾地域にお住まいの方。そして、ナーシング・ホーム(特別養護施設)に入る必要がある程度の健康状態の方。以上の条件を満たしていれば、私どものプログラムに参加していただけます」
 長期介護が必要な高齢者に医療的・非医療的ケアを包括的に提供するPACEプログラム。その提供団体のひとつ、高齢者自立センターの広報担当は、プログラムの説明会に出席した高齢者を前に、こう語る。
 さらに、広報担当者は、連邦政府の医療保険であるメディケアと低所得者向けの医療補助のメディケイドがあれば、自己負担は一切ない、と付け加えることを忘れない。
 だが、これだけでプログラムの利用者のイメージを描くことは困難だ。そこで、これらのことばを手がかりに、PACEの利用者とプログラムの提供機関について具体的に紹介したい。

要介護度が高い高齢者

 満55歳以上という参加条件を聞いて、意外に思う人も少なくないだろう。この年齢でナーシング・ホームに入居するような健康状態の人が多いのか、という疑問がでても不思議ではないからだ。
とはいえ、これはあくまで参加条件である。PACEプログラムの実施団体の連合組織、全米PACE協会によると、プログラム参加者の平均像は、次のような高齢者だ。年齢80歳の女性。日常生活動作(ADL)でみると、三つの基本動作に支障がある。また、糖尿病、関節炎、脳卒中など、八つもの病を抱えている。
 女性が多いのは、平均寿命が男性に比べて高いことの反映でもある。これに関連して、参加者の六割近くは未亡人だ。配偶者がいる参加者は、全体の二割にすぎない。
 健康状態について、詳しくみてみよう。ADLに含まれる入浴、着脱衣、歩行、食事、排泄、移動などに関して、いずれも七割程度の参加者は、介護が必要としている。食事については、八割近い人々が他人の援助が必要な状態だ。
 参加者の健康状態を理解するもうひとつの材料に、医療機関などの利用経験の調査がある。プログラム参加の半年間に、病院やナーシング・ホーム、救急車を利用したことがあるかどうか尋ねたものである。
 それによると、入院経験は、ほぼ二人に一人が経験している。ナーシング・ホームについても、七人に一人が利用したという。通院に至っては、未経験者は七人に一人にすぎない。
 メディケアとメディケイドがあれば、自己負担は一切ない。利用者にとって、これは大きなメリットだ。このことは、これらをもつ高齢者の利用率が高いことを推測させる。事実、PACEの参加者の八割は、メディケイドを受給している。
 このため、PACEは、低所得の高齢者向けのシステムとみなされがちだ。しかし、低所得者以外の参加が少ないのは、制度設計の問題だろう。メディケイドがない場合、参加者は、毎月、最大三千ドルの自己負担が求められるからだ。

提供機関の現状と課題

 PACEプログラムの起源は、一九七〇年代にさかのぼる。とはいえ、連邦政府が公式に永続的なプログラムとして認めたのは、一九九七年。このため、提供施設は、全米十七州にある四十余りにとどまっている。
 しかし、二〇〇三年、連邦政府は、農村地域やプログラムのない州に拡大するため、全米PACE協会に資金を提供。同協会は、プログラムに興味をもつ団体を対象とした資料の作成やワークショップの開催などを実施した。
 個々の提供機関も、確実に成長を遂げている。例えば、前述の高齢者自立センターは、一九九二年にプログラムを開始。この時、参加者は四十人だった。しかし、一九九七年には百四十人、二〇〇一年には三百人と増加。現在では、四百人近くになっている。
 これらの参加者に、一次医療から専門医療、各種セラピー、ホームケア、送迎サービスまで包括的に提供するためのスタッフは、ほぼ三百人。年間予算は、千九百万ドルに及ぶ。
 一見、順調な発展にみえる。しかし、財政的なリスクを提供機関が負うというシステムゆえの課題もある。一部の参加者が長期入院になれば、膨大な医療費を負担しなければならないからだ。このため、参加者を増やすとともに、寄付などの獲得が重要といわれる。
 なお、高齢者自立センターなどのプログラム提供機関は、自らのデイセンターをもち、ここに参加者を移送サービスで集め、アクティビティやセラピー、予防医療などを行っている。病院や専門医などについては、別途に提携し、サービスを提供する形が一般的だ。