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第2回アメリカのNPO型高齢者介護研修(現地参加型)
〜 サンフランシスコの「PACEプログラム」から学ぶ〜

シルバー新報7/1掲載記事
「シリーズ PACE」

第4回
 経済性と顧客満足度も優れたプログラム

大阪市立大学大学院
教授 柏木宏


 いまから40年前の一九六五年。高齢者政策に関して、アメリカは、ふたつの重要な制度を作った。高齢者と障害者向けの医療保険、メディケアがひとつ。もうひとつは、地域レベルで高齢者問題に対応するためのアメリカ高齢者法である。
 これらの制度は、最近の日本における介護保険のような効果をもたらした。一九六三年に千百にすぎなかった高齢者などへのホームケア・サービス機関が、一九九九年には二万余りに増加したのは、その一例だ。
 長期介護についても、ナーシング・ホーム(特別養護施設)の他にもさまざまなサービスが登場してきた。PACEプログラムは、これらに比べ、どのような優位性を発揮しているのか。シリーズの最後に、この点を考えてみたい。

各種の長期介護システム

 長期介護とは、病や障害により、医療的、非医療的なケアが長期間必要とされる人々へのサービスをいう。以下、アメリカのさまざまな長期介護サービスの概要をみてみよう。
@コミュニティ・ベースのサービス。移送サービス、配食プログラム、認知症などの影響で金銭的な管理が難しくなった人々への財務管理などがこれにあたる。
A在宅介護。ホームヘルパーによるサービスだけでなく、歩行困難者のための家の改修、死期が迫った人のホスピス・サービスも在宅で提供されることが多い。
Bインロー・アパート。自宅へ介助者に住み込んでもらうものだ。
C高齢者アパート。連邦政府の補助により建設された中・低所得者向けの介護つきの集合住宅である。
Dグループ・ホーム。通常、個室に住み、食事や入浴などを共同で行う。
E援助生活。通常、個室が確保され、食事、入浴、投薬、レクリエーションなどを行う施設がある。
F継続的介護退職コミュニティ。高齢者住宅、援助生活、ナーシング・ホームなどが一ヶ所に集められ、必要なレベルのところに移りながら生活できるように設計されている。
Gナーシング・ホーム。医療的な看護や日常的な介護がセットになった施設。
 これらのサービスは、介護の必要な度合いにより設けられているようにみえる。しかし、インロー・アパートの介護者は、医療的ケアを提供できるわけではない。グループ・ホームなどでも、検査や治療などのため、病院に行く必要がある。
 継続的介護退職コミュニティやナーシング・ホームは、医療的、非医療的なケアがセットだ。しかし、高齢者だけの生活になる。また、コストが高い。前者は、入居の際、四十万ドル程度必要である。後者も、一日あたり百数十ドルから二百ドルが相場だ。

現実的な代替策、PACE

 ナーシング・ホームの三分の二は、営利企業の経営である。非営利の運営は、四分の一にすぎない。営利企業の経営が直ちに悪いとはいえないが、入居者への介護に費やされる費用は、平均38%にすぎない。ナーシング・ホームというと、レベルの低いサービスというイメージは、こうした現実の反映でもある。
 いま、アメリカの健康医療関係のコストは、国内総生産(GDP)の15%、一兆六千億ドルに達している。このうち、メディケアと低所得者向けの医療補助(メディケイド)は三分の一を占める。政府は、医療費の抑制が緊急の課題なのだ。
 PACEプログラムへの政府レベルの関心の高まりは、この事態と大きく関連している。一九七七年に行われた調査によると、PACEに対するメディケアの支出は、PACEの参加者と同様な健康状態にある高齢者への支出に比べ、12%も少ない。
 なぜ、このような結果になるのか。最大の理由のひとつは、PACEの予防中心のサービスにある。プログラム実施機関の収入の大半は、メディケアとメディケイドからの参加者ひとり当たり一律の資金だ。カリフォルニア州では、毎月約四千ドルである。
 実施機関は、この資金の多くを健康状態の維持と予防医療に投入している。大病、長期入院となれば、この資金は瞬く間に消え失せてしまうからだ。このため、年間の入院日数をPACEの参加者と65歳以上の高齢者全体を比較しても、前者の方が少ないという結果を生んでいる。また、一回の入院における平均日数では、PACEの参加者は高齢者全体よりも三分の二以下ですんでいる。
 とはいえ、「安かろう、悪かろう」ではない。在宅介護の評価機関、地域健康評価プログラムは、全米五カ所のPACE実施機関を調査した結果、「極めて優秀」と判定した。また、連邦政府の委託を受けた団体の調査でも、生活の質の向上や死亡率の低下、自尊心の高まりなどがみられたという。

 急速に進む高齢化社会と高騰する医療費。この現実に、従来のナーシング・ホームを頂点にした長期介護システムは十分対応できないでいる。この問題への解答のひとつがPACEプログラムである。「ナーシング・ホームに代わる唯一の現実的な代替案」といわれるPACEは、「高齢化社会ニッポン」にも参考になるところが大きいのではないだろうか。