BACK HOME
 

ベイエリア通信 2 10/05/01


 9月29日、ブッシュ大統領の「報復戦争」に反対する、最初の統一行動が行 われたサンフランシスコのドロレス公園には、インディアン・サマーの太陽が照 りつけていました。夏のあいだ、霧におおわれがちなベイエリアでは、9月にな るとゆく夏を惜しむように、インディアン・サマーと呼ばれる暑い日々が続きま す。広い公園のあちこちで、ドラムが響きわたり、中央のステージの上空には、 「War and Racism is not the Answer」と書いた大きな風船が浮かび、さまざま なメッセージを書いたカラフルなプラカードもった人々が、続々と集まってくる なかを、人の3倍もあるポペットが歩きまわっています。アメリカ国旗も5〜6 本翻っていました。その日のサンフランシスコ集会の参加者は、メディアによっ て、1万人から2万人と報道されました。
 「こんなにたくさんのわかものたちが、60年代にベトナム戦争に反対した人 たちと一緒に行動に参加しているのは、すばらしいことですね。」と、となりに いた女性がたかぶった声で話しかけてきます。彼女は中学生のとき、ベトナム戦 争に反対する母親と一緒に、この公園での集会に来たそうです。ほんとうに20 代30代が圧倒的に多い。わたしもついうきうきして、60年代のわかものに戻 ってしまう。そのいっぽうでは、「あんなによたよたとしたおばあさんが、自分 で書いたプラカードを持って、ひとりで参加しているのには、感激してしまっ た。日本では考えられない。」という日本人の女性もいました。日本語で書いた プラカードを高く掲げているのは、ベイエリアの日本人とNPOが集まって結成し た「戦争に反対する日米ネットワーク」のグループ。留学生、NPOの代表やイン ターン、永住権、アメリカ市民権を得た人など、20代から60代まで、集まっ た40人ぐらいの大多数が女性たち。アメリカ人の夫と3才の子どもを連れて参 加した、妊娠8ケ月の女性は、「私にとって、この反戦デモは、ああ、他にもこ んなにたくさんの人たちが、戦争を回避したがっているんだな、アメリカに住む 無実のアフガニスタンの人々を庇ってくれているんだな、と、肌身にしみて感じ ることが出来、思わず目頭が熱くなりました。」と後でe-mailを送ってきまし た。
「差別に反対するアラブ系アメリカ人協会」」「中近東子ども同盟」「パレス チナの自由を求めるユダヤ人」などの代表を含む、さまざまなスピーカーのなか で、最も熱狂的な拍手で迎えられてのが、バークレー高校3年生のビアンカ・ボ ニラさん。自分の学校でアラブや東南アジア系の何人かの生徒が、いじめにあっ たのを機会に、「わかもの同盟(Youth Together)」を作って勉強会を始め、他 の学校にも呼びかけている、と語りました。「わたしたちのプレジデントはクー ルじゃない。教育なんかそっちのけで、戦争にばかりお金を使おうとしているん だから。メディアは、ほんとうのことは言わないから、気をつけなければいけな いし、なにを信じればいいのかわからない。でも今日は、こんなにたくさんの人 たちが、わたしのというか、わかものの声を聞いてくださって、うれしくてたま りません。」
 集会のあと、ミッション地区をひとまわりしたながーい行進にも、沿道の人た ちから、熱い声援が送られました。日本語で書いたプラカードは、とくにめだつ らしく写真をたくさん撮られました。主流メディアが、9/11日事件を、パー ル・ハーバーになぞらえらるアメリカで、第二次大戦中に強制移住を強いられた 日系アメリカ人の歴史が、いまアラブ系の人たちに対する憎悪犯罪の危険になぞ らえられて、注目されています。日系人がさしのべる誠意あるサポートに、アラ ブ系の人々が深い感謝をあらわした、というエピソードもラジオで伝えられまし た。
 ベイエリアは、アメリカでも最も多様な人種と文化が共存するコミュニティで す。サンフランシスコのある高校の生徒たちの家庭では、19ヶ国の異なった母 国語が使われているそうです。そして遺伝子の系脈も、どんどん複雑に混じり合 っています。まさにグローバル市民が、日々生まれ育っているのです。そんなな かで成長している子どもたちにとって、「文化や言葉の違いをこえて、お互いを 理解しよう」という、おとなたちの理想は、身についた日常生活そのものなので す。だから、おとなのまねをして、いじめをする子がいれば、それに対する行動 もすぐに起こります。
 バークレー高校では、この集会の3日前にも、こうしたいじめをなくそうと する、「多様文化祭」が催されました。差別でなく、多様性を認めましょう、 と、生徒たちがそれぞれ民族衣装を着て、詩の朗読、ダンス、「We Are The World」の合唱などをしたあと後、8人の生徒によるパキスタンの伝統的なダン スがあり、最後にアラブ語のhelloと good-byeをみんなで合唱しました。
 その日は小泉首相が来米した日で、翌日、新聞スタンドをのぞいたら、「純ち ゃんとブッシュ君」の写真を一面に載せた地方新聞がひとつだけありました。な にか面白いお話しがあるのかなあ、と買ってみたら、お話しは10行ぐらいしか なかったけれど、たまたまその新聞が、「War or Peace」というタイトルで、湾 東地域の高校生たちの声を特集していたのです。そのいくつかから抜粋して、ぜ ひ紹介したいと思います。

 「今度の事件で、おとなたちが自分たちのことをどう見ているかがよくわかり ましたた。いれずみやピアスをしている、無知無能のバカものたちが、テロに対 して戦おうとするだろうか、戦うことなんてができるだろうか?と、おじさんた ちがテレビで言っていたのです。わたしの友人たちは、今度の事件に悲しみと怒 りを感じています。でもこれは、大人たちがいままでやってきたことのしわよせ だと思うと、うんざりしてしまいます。こんどの事件をきっかけに、いじめをし たり、政府を非難したり、まったく無関心でいたり、反応はさまざまです。でも 実際に今度の事件で、赤十字に大量の血液を献血したり、ニューヨークで、消防 署とともに、被災者や家族の救援に参加しているのは、私たちの世代だし、戦争 になれば、それをするのもわたしたちです。おとなはそのことをみてほしい。わ たしたちは、第二次大戦もベトナム戦争もしらない。わたしのまわりにいるおと なたちは、選挙にもいかず、政治的知識もない人が多く、戦争の体験も話してく れないからです。わたしたちには、この国の政治に参加する選挙権もありませ ん。でも、わたしは、自分たち、自分の世代こそが、テロ行為をおわらせ、平和 をもたらすと信じています。」(エリザベス・ライリ)

 「ぼくの学校では、テロのニュースを聞いたその日、誰かがロッカーに太字で 大きく「戦争反対」と書いた。すぐにそれは、教室のドアや廊下や自動販売機な どにも書かれ、生徒たちの「戦争をしてはいけない」という思いを書いた、フラ イヤーやポスターがあちこちにはられた。」(ケスリー・デモン)

 「ほかの人と同じように、わたしはアメリカがもちろん好きだけど、軍隊に参 加する気はありません。愛国心が無い、といわれるかもしれませんが、戦争は、 あまりにも恐ろしくて、人間的な行為とは思われません。アメリカ人が、他の 国々を破壊し、そこの人々を殺して、勝利感や誇りをもつ心理が、わたしには理 解できません。わたしは、軍隊に入るのではなく、ほかの方法でアメリカにつく したいとおもいます。」(メリー・フェララ)

 「戦争は、暴力と憎しみのサイクルを促すだけ。政府に命令されたからといっ て、人を殺すことはできない。ぼくらが、本当に世界平和を望むなら、自分から 武器を捨てて、お金だけでない人生の価値づけをする必要がある。ぼくらが、じ ぶんたちの利益だけを求めて、イラクを搾取したりするのをやめて、彼らと気持 を分かち合えるようになれば、この世界は、もっとよい安全な場所になる。」 (パトリック・リンチ)

 「9月11日以前に、もし僕が徴兵されたら、ぼくは、カナダのバンクーバー に移住しただろう。でもいまはちがう。いま、アメリカがやろうとしている戦争 にぼくは賛成する。一握りのテロリストたちの行為が、モスレム教のイメージを まったく変えてしまった。」(マイク・メッツ)
(翻訳:米山麻衣子)

 これが、高校生なんですよ!希望がわきませんか?大統領立候補資格を20才 未満とするよう、署名運動を始めたいぐらいです。
 もしかしてブッシュ君にもこんな声が届いたのか、今日のラジオでは、アフガ ニスタン難民救済に3億2千万ドルを追加し、平和集会で聞いたのと似たような 言葉がたくさん出てくる演説をしました。「われわれは、テロリストと戦おうと しているのであって、アフガニスタンの市民たちは友人です。」と。おもわず拍 手をおくりました。ところが、そのいっぽうで、これまで、テロリストを支持し ている、とか、自国民の人権を侵害している、などの理由で、武器の輸出を禁止 していた、シリア、イラン、パキスタン、中国などに対して、禁止を解くよう、 議会に要請しているのです! まさか!いまこのときに? と呆気に取られるいっ ぽう、やっぱりこれなんだな、と納得もいきます。アメリカは世界最大の武器生 産、輸出国であり、第二次世界大戦以来世界中で起きた、48の戦争のうち39 戦でアメリカ製の武器が使われました。これらの地域戦争で4億人が死んだとい われています。ソマリア、ハイティ、パナマ、イラク、コソボなどに出征した、 アメリカのわかものたちは、「Made in USA」の武器と戦わねばならなかったの です。「もうっ、やめてーっ!」て大声で叫びたくなりますね。でもアメリカが 今の世界的リーダー(!)の地位を築くのにもっとも貢献したのは、原爆をふく める、ありとあらゆる武器開発とセールスであって、ブッシュ君は、その伝統を 守り、この機を利用してさらに拡げようとしているだけのことです。
 マイケル・エリックダイソンという学者が、「もしあなたの家族に麻薬中毒者 がいて、家族の知らないところで、犯罪を犯し、その被害者が家族に仕返しをし てきたらどうするか」と、ブッシュ君の行為を中毒患者のそれになぞらえていま した。たしかにアメリカの外交政策というか、いま世界を動かしている衝動は、 武器中毒、石油中毒、金儲け中毒患者のそれとしかいいようがないのかもしれま せん。金権物教オーソドックス派が、支配する世界。しかも、わたしたちの知ら ないところで、何が起こっているのか、さっぱりわからない暗黒の情報時代。
 でも、中毒患者がわたしたち人間家族のメンバーであるかぎり、ほうっておく わけにはいきませんよね。怖がったり、非難するだけでは、ますます中毒が進行 します。ときどき星をながめながら、戦争の好きな男たちを、地球の外へ「星流 し」にできたらなー、などと思うのですが、彼らはもうすでに、宇宙でだって戦 争を始めようとしているんだから、もっと危険な事態になりかねないし、これは もう地球の家族全員で、治すしかないですね。そのためには、まず彼らがどうし て中毒患者になったのか、なぜ戦争が起こり続けるのかを、いまこそ(ああ、な んど同じことを言ってきたことか。でも必要なかぎり、くりかえすしかないんで しょうね)根本的に解明し、原因をとりのぞくしかないと思います。
 さいわい、わたしたちの家族には、さきに登場したような、健康ないのちの常 識をまだこわされていない、育ち行くわかものたちがいます。かつてわかもので あった、あらゆる世代のおとなたちが、持っているかぎりの体験と歴史と事実 を、栄養として彼らに伝え、彼らとともに歩いていくなら、彼らが望む世界を実 現するのは、可能だと思います。
 この戦争騒ぎの最中に、栃木のecoーonlineの上岡裕さんから送られてきた、 「米作り」「竹炭作り」ワークショップのお知らせに、どんなにホッとさせられ たことでしょう。「This is Answer」と吹く一陣の風のように。ありがとう。
 日本のわかものたち、そして60年代、70年代のわかものたちの声も聞かせ てくださいね。ではまた。

 (通信1で、KPFAラジオ局が、第一次大戦後に創立された、というのは、第二 次大戦のあやまりでした。なにしろ洪水のような情報のなかで、減退記憶を頼り に急いで書くので、事実に誤りがあれば、ご指摘ください。)

風砂子デアンジェリス
(カリフォルニア州バークレー在住)

                                               


   BACK HOME