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オークランドのNPOのケーススタディ

日本太平洋資料ネットワーク
白井絵里子

はじめに

このケーススタディは、カリフォルニア州オークランド市にあるOCCC(Oakland Chinese Community Council,Inc.)、バークレ ー市にあるJASEB(Japanese American Services of the East Bay)をコア団体として実施する。ケーススタディの目的は、以下の 2点である。

第一は、アメリカにおける高齢者政策におけるNPOと行政の関係を具体的に検討することである。

第二は、地方レベルでの高齢者サービスの実施における行政機関とNPOとの具体的な関係について検討する。

これらの目的を満たすため、このケーススタディでは以下のような構成をとった。まず、アメリカにおける高齢者福祉政策につい ての概要を説明した。次に、NPO が行政とどのような関係を保っているかについて、事業実施機関と資金提供機関といった視点から の分析を行った。

(1)アメリカにおける高齢者福祉に関する法律及び政策について

アメリカにおける高齢者に関する最も包括的な法律としては、1965年に連邦議会によって制定されたOlder Americans Act(ア メリカ高齢者福祉法=OAA)がある。これは、高齢者の急激な増加により生じてくる様々な問題にこれまでの制度では対処しきれな くなったため、高齢者の多様性を考慮しつつ彼らが家庭や地域で健康な生活を維持していくことを目的とするものである。そしてそ のために必要なプログラムを連邦、州、地方レベルで計画・実施していくための新たな枠組みが作られた。

連邦政府においてはDepartment of Health and Human Services(DHHS)の中のAdoministration on Aging(高齢者福祉局 =AonA)、州政府においてはState Agency on Aging(高齢者福祉庁=AoA、州または領土を単位としており、全米で57カ所設 置)、地方レベルにおいてはArea Agency on Aging(地域高齢者福祉局=AAA、基本的には市や郡単位 で、また複数の郡を単位と する場合もある。全米で670カ所設置)の高齢者対策実施機関とそれに対する諮問機関が設置されている。

この法律によって連邦政府の資金が、州内の60才以上の人口に応じて州や領土に配分されることが認められている。各州ではそ の資金を高齢者に対する幅広いサービス提供を行うための資金として州内のAAAに助成金として配分する。それらの資金をAAAが 行うプログラムに対してどのように配分するかは、州内部の資金提供方式によって決められている。

州レベルでのOAA の実施機関であるCalifornia Department of Aging(カリフォルニア州高齢者福祉局)は高齢者個人に影響を与 える特定の問題を扱う他の省庁との調整、高齢者が家庭や少なくとも家庭に近い環境で生活を送れるようにするための地域ベースで のサービス提供に関して主導的な役割を担うこと、試験的な長期介護計画を実施することが求められている。

州レベルでの諮問機関であるCalifornia Commission on Aging(カリフォルニア高齢者委員会)は、カリフォルニア州高齢者福祉 局に対して州の高齢者に関するサービスの計画や実施に対してアドバイスを行う政策提言機関として位 置づけられている。

AAAは地方レベルにおける高齢者対策実施機関であり、地方レベルで高齢者の福祉的要望に対応していくために州によって指定さ れた公的組織(66%)、民間非営利組織(33%)であり名称は必ずしも一定ではない。AAAは担当地域内の60才以上の高齢者 を擁護し、彼らの福祉的要望を把握し、それに対応したサービスを提供するための地域ベースでの多年度計画の作成、それらを実行 するためのアメリカ高齢者福祉法資金や他の資金の管理を行っている。

なお、AAAが行うサービスに対してアドバイスを行ったり見直しを求めたりすることを目的とする政策提言機関としてAdvisory Councils(諮問評議会)の設置が義務付けられており、現在では15,000人の市民が評議会のメンバーとしてAAAとのパートナシ ップを築いている。


事業委託への経緯

1965年の制定当時は大して関心を持たれることはなかったアメリカ高齢者福祉法は、その後1969年に修正が施され、高齢者 サービスに関する計画と実施において州の権限が強化された。具体的には高齢者の福祉的要望により効果 的に対応していくため、資 金配分の改正や法律・規則の制定及び強化、サービスやプログラムを実施するための公・民間団体による統合的な枠組みにおいて州 が主導的な役割を担うことが求められた。

それまでも非営利団体や州政府により、ある程度のプログラムが多くの高齢者に対して行われてきた。しかし、問題が複雑に絡み 合っている場合には従来のプログラムだけでは対処できない、地理的な理由でそれらのサービスを受けることができない、などの理 由で十分にそれらのサービスを享受できない高齢者がいた。そのため、新たなシステムはこのような状況の改善も目的としていた。

1972年にはアメリカ高齢者福祉法の中心をなす第3章“地域での計画、サービス、トレーニングに対する助成”のもとで行われ るプログラムへの資金配分が、前年の議会の決定により3億ドルから一挙に100億ドルに引き上げられた。これがきっかけとなっ て、1973年の修正によりサービス計画地域(PSA)とAAA の設置が定められ、AAAは地域において高齢者の福祉的要望に対応した サービス提供をするための制度の計画と調整をしていくことを委託された。

さらに1978年の修正では、高齢者の在宅介護に関連するサービスを強化することに重点が置かれた。その後1983年には、高 齢者医療費の増大によるメディケア費用の増大が連邦予算の増大化につながっているとしてメディケア費用の抑制を目的として、定 額見込み払い(PPS:Prospecteve Payment System)が導入された。これは医療サービスの多寡によらず、467種類の診断群 (DRGs:Diagnosis Related Groups)ごとに定められた金額が病院に償還されるという制度であり、病院側が早く患者を退院させよ うとする誘因となったため、退院後の在宅での看護・介護サービスの需要が増えた。上院の高齢者特別 委員会によれば、1983年 から86年の間に在宅介護サービスが37%も増加したと報告されている。

また、長期施設介護におけるメディケイド支出の増大も著しいため、近年ではメディケイドプログラムの放棄者には長期在宅介護 プログラムの利用が受けれるように、連邦及び州政府が財政援助を行うようになるなど、財政も施設型介護から在宅型介護への移行 にインセンティブを与えている。  以上のような背景に加え、アルツハイマー病患者の家族の福祉的要望への対応もOAAにより求 められているため、家庭への配食サービスや在宅での介護に対する膨大な需要の増加がAAAやサービス提供団体の予算を大きく圧迫 している状況にある。

今日では、 AAAの実施するサービスやプログラムは連邦政府による医療費統制手段の結果 、増大する在宅中心の介護やサービス の需要に対応するものとなっている。つまり連邦政府による健康・医療費の削減政策の過程で、AAAは在宅介護サービスに重点を置 いた“補助的医療モデル”を強いられるようになっており、AAAの職員はこのような状況で患者中心のサービスを行うためにプログ ラム予算の引き上げを要求している。

現在では、AAAとAdovisory Commission on Aging(高齢者諮問委員会)は合理的な料金で高齢者に対し最良のサービス提供を 行うための手段として競争入札手続きを肯定している。そして民間、非営利の団体がサービス提供に必要な資金獲得をめぐって競合 する状況にあるが、今日のような状況に至るには以下のような経緯がある。

レーガン政権において従来の政府と非営利セクターとの関係を見直して公共問題の解決に向け、民間セクターがより積極的に取り 組むことを促すために非営利セクターへの補助金が削減された。これにより民間からの援助が増えること期待されたのだが、実際に は政府資金の削減分を埋めるには及ばず、結局多くの非営利団体は厳しい条件に置かれた。その結果 、活動の継続が困難となり撤退 する団体もでてきた。このような事態を乗り切るため、多くの団体が商業主義に走り、サービス料金の収入に大きく依存するように なったという経緯がある。

一方で、公的機関と事業契約を結んでいる団体からサービスを受けるには一定の要件を満たさなければならず、サービス提供を希 望しているにもかかわらず、これらの団体からサービスを受けることができない人々が増加していった。このような人々の需要に迅 速に対応し、大きく進出したのが民間団体だった。必要に迫られた人々は、非営利団体よりも高いサービス料金を払ってこれらのサ ービスを利用していた。

現在行われている競争入札においては、補助金を提供するにあたり厳密なサービス実施基準が設定され非営利、営利団体にかかわ らず、合理的な料金でこれを満たすことができるかどうかが審査の対象とされる。そのため、提供されるサービスの量 と質とができ るだけ高齢者の福祉的要望に応えられるような制度となっている。

それではなぜAAAが直接サービス提供を行わずに事業契約により民間、非営利団体にやらせているのだろうか。主に2つの理由が 挙げられる。

1つには連邦政府により事業契約によるサービスを提供していくことが求められ、AAAは直接サービスを提供するのではなく、事業 契約の遂行の監督機関として法的に位置づけられているからである。

2つ目の理由としては、もともと一定のサービス地域を持っている団体の方が費用効果 的に地域に密着したサービスを提供すること ができるからである。(たとえば、食事の配送を行う場合AAAが直接サービスを行おうとしても実際にサービス地域全てをカバーす ることは不可能に近い。また、日系や中国系といっ少数民族の住民を対象にサービスを提供するような場合には AAAには日本語や 中国語を話せる職員がいないが、そのような職員がいる団体はむしろ合理的にサービスを提供することができる。)

 

(2)事業実施と資金提供におけるNPOと行政

では、事業実施機関であるNPOと資金提供者である行政との具体的な関係はどうなっているのだろうか。contracting agency(契 約実施機関)としてのAAAという視点からアラメダ郡を例に分析してみることにする。

AAAは郡の行政組織の中ではSocial Services Agency (社会福祉庁)の中の一つであるDepartment of Adult and Aging Services(成人及び高齢者福祉サービス課)の一つとして位 置付けられており、AAAの職員はBoard of Supervisors(議会に相当す る参事会、郡の最高意志決定機関=BOS)によって、さらに両者は主に高齢者の市民で構成される21人のメンバーによる高齢者諮 問委員会によって監督を受ける。

アラメダ郡AAAはDirector(理事)、プログラム会計専門家、プログラム計画/会計専門家(以前はプログラムサービスコーディ ネーターといっていたもので、プログラム開発と財政管理に対して幅広く責任を負うことを明確にするために改名された)、ソーシ ャルワーカー、経理専門家、パートタイムの高齢者の栄養に関する専門家、書記官らから構成されている。

AAAはアメリカ高齢者福祉法資金をもとにしたアラメダ郡の60才以上の住民に対する高齢者サービスプログラムの実施におい て、公、非営利、民間の団体からのRequest for Proposal (事業契約の申請=RFP) を受け付け事業契約を行う、いわばアラメダ郡 における契約実施機関としての役割を果 たしている。 この方法は、アラメダ郡において連邦政府からの補助金は全て競争入札によっ て分配されなければならないという方針が打ち出された1974年から実施されているものである。

アメリカ高齢者福祉法資金は税収を資金源としており毎年議会の決定に基き、アメリカ高齢者福祉法を法的根拠として州を通 じて 連邦政府から年間450万ドルがAAAに流れている。そのうちの90%以上(残りは主に運営費に使われる)が契約プログラムに充 てられている。

AAAの行うプログラムに対する連邦、州政府からのアメリカ高齢者福祉法資金の郡別 配分は州の資金配分方式によってあらかじめ 決められている。またそれらの郡内での地域別 、プログラム別配分はアラメダ郡AAA資金配分方式 によって決定されるが、この方 式は以下のような経緯で制定された。

1992年に修正されたアメリカ高齢者福祉法では各地域において特定の高齢者に対して特に注意を払わなければいけないとしてい るが、これに先立ち1991年にはアラメダ郡AAA 資金配分方式の検討を目的として、AAAの職員、高齢者諮問委員会のメンバー、1 5の地域団体の代表(それらの大半は契約によりサービスを提供している団体)から構成されるFundingFormula Committe(資金 配分方式検討委員会)が設置された。それを引きつぐ形で1995年にはFunding Allocation Task Force(資金配分検討特別委員会、 その後Senior Service Coalition of Alameda Countyと改名)が設置された。これにより従来の資金配分方式の見直しが行われ、そ の結果、65才以上の貧困及びSSI(生活保護)の受給者、60才以上の少数民族、65才以上の障害を持つ人、英語を母国語としない 65才以上の人、郊外に住む60才以上の人にサービスプログラムを行う際に重点を置くことが確認され、これをもとに新たなアラメ ダ郡AAA資金配分方式が作られた。

また、1993年には、高齢者人口の増加に加え人種の多様性という特徴をあわせ持っているアラメダ郡において、施設入居者以外 の55才以上の住民の福祉的要望、関心、それらに対応できる人的・物質的資源を正確に調査し、それをもとにして今後の対応を検討 することを目的として高齢者福祉要望調査が始められた。この調査においては多角度から高齢者の実態と現在及び将来の福祉的要望 を的確にとらえるために介護者、政策提言者、サービス提供者、地域のリーダー等あらゆる人々が調査の対象に含まれた。 1年にわたって1990年の国勢調査のデータをもとに、既存のデータベースや報告書の見直し、775人にのぼる電話調査、高齢者 と深い関連のある立場にある81 人に対して行われたインタビュー、郡内4カ所での地域会合(全参加者は160人)、多方面 で活躍 している15団体から経験を聞くための会合(全参加者は160人)、質問用紙による調査(回答者数208人)の6つの調査方法による 多方面からのデータ収集とそれらの分析が行われた。その結果、1994年にはそれらのデータに基く豊富な情報を網羅した報告書が 作成された。

この調査では、高齢者人口の増加に伴うサービス需要の増大にもかかわらず、それに対応できる公的・民間サービスが不足してい ること、また医療行為以外の高齢者の介護は主に家族やボランティアによって行われていること、それとは対象的に公的な支援制度 がほとんど存在しないことが報告されている。

さらに実際にサービスを受ける際には、どのサービスを受ければ良いのか特定できないこと、それらに関する情報の入手が難しい こと、英語で意志伝達ができないこと、サービスを受けるためのアクセスが悪いこと(交通 機関の乗り継ぎが多い、移動時間が長 い)、“福祉”を受けることに対する嫌悪感(サービスを受けることにより、施設での生活を余儀なくされるのではないかといった 懸念)などが障害になっていることが指摘されている。

この報告書は最終的に、ボランティア活動のリーダー、市や郡で実施される高齢者サービスプログラムの担当者といった郡内のあ らゆる地域・人種から構成される21人のメンバーによる高齢者の福祉的要望調査監督委員会によって、検討された。その結果 、現 在実施されている新たな事業契約の申請基準が作成された。


事業契約の申請

事業契約の期間は4年で、最初の1年目に結ばれた事業契約は実績や契約遂行の状況に応じて1 年ごとに更新されていく。AAAは契 約期間中であってもこの契約を修正、停止する権利を有する。この競争入札は4年に1回実施される。

1994~1995年度においては連邦及び州政府からのアメリカ高齢者福祉法資金、United States Department of Agriculture(連邦 農業省=USDA), アラメダ郡の一般 資金を合わせた408万8,305ドルがAAAのプログラムの実施に充てられ、29団体と事業契約が 結ばれた。以下のプログラムが事業契約の対象となっている。

アルツハイマー・デイケア・情報センター(アルツハイマーの患者に対するデイケアや介護家族に対する情報の提供等の地域ベー スでの長期プログラムを行うことを目的とするもので、Department of Aging(州高齢者福祉課)の管轄下にある)、ケース・マネ ジメント(高齢者が抱えている福祉的要望に対し、公的な制度や多様な福祉サービスを必要に応じて連携させ最適な形でサービスを 提供するものである。そのため、次のような過程をたどる。「福祉的要望の内容を明確にするための調査」「援助計画の立案」「計 画の実行」「援助が効果的に行われているかの確認」「高齢者の状況変化に対応するための再調査」。日本では“ケア・マネジメン ト”の用語が用いられている)、地域高齢者福祉支援センターの支援(高齢者センターにおいて健康に関する相談や予防接種、娯楽 活動や社会福祉活動、高齢者に関係のある公的制度やサービスについての情報提供等を行う)、成人のデイケア(18才以上、ここで は主に高齢者に対して、センターにおいて個人的な支援サービスを1日のうち何時間か行うもので、地域介護施設として州社会福祉 課の認可を要する=ADC)、健康促進サービス(高齢者福祉センターにおいて健康状態の確認と病気の予防、高齢者やその家族、地 域施設の職員に対して高齢者が受けられる特典や権利についての教育を行う)、在宅サービス(介護人案内の作成プログラム:後述、 訪問プログラム:障害を持つ高齢者の在宅での生活を支援することを目的として、家庭訪問や電話による安否の確認と慰問を行う。 これらのプログラムにおいて資金提供を受けるためには、家庭訪問、電話での安否確認と慰問、買い物の補助のうち最低2つを行う ことが求められている。またこれらのサービスは団体の職員による管理、監督のもとでトレーニングされたボランティアによって行 うことも可能であるとされている。)、情報提供サービス(60才以上の人、特に英語を話せない人を対象に医療や福祉制度、サービ スプログラムについての情報提供を行う)、法律サービス(高齢者の医療制度、収入、資産管理、遺書の作成等に関する法律的なア ドバイスや相談を弁護士、またはその監督のもとで適切な人が行う)、高齢者虐待の予防(高齢者への不適当な処遇を防ぐために、 高齢者や介護者、高齢者サービスを提供している団体に対して様々な方法で教育が行われる)、配食サービス(定められた栄養基準 によって調理された高齢者向けの食事を高齢者の家庭や地域の高齢者福祉施設に宅配する)、高齢者の雇用(Senior Community Service Employment Program:高齢者地域サービス雇用プログラム=SCEP)と呼ばれるもので郡内の55才以上の低所得者、特に少 数民族に対し、正規の雇用を促すために地域サービスを行う職場でのパートタイムの雇用機会を与えることを目的とする、連邦労働 省と州の高齢者福祉課の法律によって規定されているプログラムである)、オンブズマンサービス(長期療養施設での高齢者からの苦 情に関しての調査とその解決を目的とする)

なお、申請を行うにあたっては損害賠償保険への加入が必要とされている。


審査の基準

事業契約の審査は分野別(支援サービス、配食サービス、高齢者の雇用)別 に同一の基準で行われ、以下の4つの項目から構成され る。

1.サービスの内容(レベル、タイプ)に関する項目(40ポイント)
サービスの利用者にはサービスを重点的に行うよう指定された高齢者が、最低限定められた基準含まれなければならないとされてい る。(例えば60才以上人口に占める少数民族の割合が北部の地域では48%であるため、利用者のうち少数民族が占める割合が最低 でも48%でなければならない。その基準を満たせない場合には申請は認められない。)各プログラムについても提供されるサービスの内容、数値で示された最低限求められるサービス提供の基準について細かく定められ ている。各団体は事業契約が結ばれた場合、これらに沿ったサービスの提供が求められるため、申請を行った団体が適切なサービス を提供することが実際に可能かどうかが審査されることになる。具体的には年間利用者の推定、サービスの質をどのように確かめる か、他の条件が一定でサービスの需要が増えた場合にはどのように対応するか、などの質問項目からなる。

2.ケーススタディ(30ポイント) ある利用者のケースを想定し、サービス提供に必要な情報や調査、福祉的要望を的確に把握することができるかどうかを評価する。

3.団体の実績、実行能力(30ポイント) これまで地域でどのような高齢者サービスを行ってきたか、このサービス提供を行うための経験または特別 な技能を持っているか、 職員の配置計画、どのようにボランティアを募集、トレーニング、活用していくか、サービスの計画と評価においてどのようにして 利用者及び地域の人々を参加させるか、といった質問から構成される。

4.どのようにサービス内容を高めることができるか(プラス10ポイント) 団体としてどのような付加的なサービス提供が可能であ るかをアピールする項目である。


契約締結までのプロセス

参加は任意であるが、申請に先立ち申請書類の書き方に関する講習会や説明会が行われる。

1. 提出された申請書類は、サービスの実施とプログラム評価に見識のある地域の代表(2人以上)、高齢者諮問委員会のメンバー (1人以上)、推進役としてのAAAの職員から構成されるProposal Review Panel(審査検討委員会)によって審査される。

2.その結果を受け、高齢者諮問委員会に対し定例委員会の場で推薦が行われ、そこで再び検討される。この段階で入札参加者(申請 書類を提出した団体)は口頭あるいは文書でこれらの結果に対し申し立てを行うことができる。

3.翌日、審査の結果が参加者に郵送される。1週間以内に、この結果 に対して不服がある場合には、Appeals Review Panel(抗議検 討委員会)の独立機関に対し文書で申し立てできることがアメリカ高齢者福祉法 によって規定されている。

4. ここでこの不服申し立てを受け付けるか棄却するかが判断され、その結果 を受けての推薦が高齢者諮問委員会で行われる。

5.この推薦は定例委員会で決定され、参事会により最終的に承認される。この定例委員会の間も参加者は申し立てを行うことができ る。

6.参事会での決定はAAAの決定として州高齢者福祉課により再審査されることになる。


プログラムの実施

団体は毎月請求書をAAAに送ることによりかかった経費を払い戻されるという方式をとっている。3カ月に1回報告書の提出、6 カ月に1回の立会監査が義務付けられている。立会監査は経費の収支に関する書類の有無、理事会のメンバーやその開催状況、ボラ ンティアや職員のトレーニングの有無、利用者の反応をどのように把握しているか、といった項目について行われる。

またそれらの結果から、プログラムの実施に伴って生じる専門的な援助やトレーニングの必要性を特定し、それに対しAAAはどの ような計画をたてたらよいかということも検討されている。AAAが契約団体にただ改善策を求めているのではなく、それに対し積極 的に支援を行っていこうという姿勢がうかがえる。

以上のことから、NPOと行政は高齢者に対するより良いサービスを提供していくという同一の目的に向かう2本のレールのような 関係であるといえるのではないだろうか。互いの役割が交わることはないけれども、どちらか1本が欠けてもレールとしての機能を 果たすことはできない。スムーズにその機能を果たすためには、あらゆる視点からの観察、また状況の変化に対応した改善が必要で あるが、NPO、行政だけではそれらにくまなく目が行き届かない。そこで市民という多数の目による監視とより良いレール作りのた めの参加が必要になってくるのである。

このように当事者である高齢者を含めた市民の幅広い参加があることによって、初めて事業実施機関であるNPOと資金提供者であ る行政とのパートナーシップが成り立っているといえる。

そこで次に、AAAと事業契約を結んでいるNPOでは実際にどのようにしてサービス提供を行っているのかを見てみることにする。


JASEBが行う在宅サービス

JASEBはアラメダ、コントラコスタ両郡内で生活する日系の高齢者ができるだけ長く家庭で生活を送ることができるよう支援する ために1971年に設立されたNPOである。現在の年間予算は、約28万ドル、有給職員は6名。主なサービスは、高齢者福祉センター の運営、配食サービス、在宅サービスとなっている。

行政からの資金援助はAAAから3万5,000ドル、 バークレー市から3万ドル(うち1万2千ドルは配食サービスプログラム、1万8千 ドルはその他のプログラムに充てられている)を受けている。

AAAとは在宅サービスの「介護者案内サービス」の分野で事業契約を結んでいる。他にも友愛訪問や電話による安否確認などのサ ービスを行っているが、これらは在宅サービスを補うものとなっている。この介護者案内サービスとは、Instrumental Activities of Daily Living (日常生活動作:摂食、衣服着脱、入浴、整容、排泄、起居移動など=IADLs)を行うことが困難な人を在宅で介護してい る家族が、一日または数時間の休息を取るために介護者の派遣を必要とした場合に、身の回りの世話、買物代行、その他の家事を一 時的に代行できる介護者を派遣するために必要な登録簿の作成と、それに基いた照会を行うサービスである。

これまであった名簿には、日本語と英語が話せる介護者は登録されていなかった。しかしJASEB にサービスを求めてくる日系の高 齢者やその家族の多くが日本語が話せ、日本料理も作ることのできる日本の生活習慣を持った介護者を必要としていたため、そのよ うな必要性に応えるために新たな介護者登録を作成した。

このサービスを開始するにあたり最も力を入れたのが、教会、日系新聞、地域で活動している団体などを通 じて介護者とボランテ ィアをリクルートすることであった。同時にこのサービスを広く知ってもらうために地域の中で説明会を開催した。JASEBの職員に 直接会って、サービスの実態を理解してもらうことによって、住民がより信頼して支援を求めるようになり、また住民からの協力も 得られやすくなるというメリットがある。

現在、JASEBの日本語・英語を話せる職員により選ばれた登録介護者は40人程度(20〜70才代)で、利用者数に対応できるだけ の人数である。彼らに対してはJASEBの職員により献立や食事作りの指導や、介護を行う際に介護する方もされる方も安全に行える よう、入浴、排泄介助などのトレーニングが行われている。

JASEBによって照会を受けた後、介護者とサービスを受ける高齢者と家族による面 接、時間や利用料金(相場は6〜10ドル/時 間)に関する条件の当事者同士の交渉が各家庭で行われる。派遣される介護者はJASEBの職員ではないためJASEBの雇用保険は適用 されないので、介護者に対する保険の手続きも求人側である家族が行わなければならない。

所得が低い高齢者は、適切な訓練を受けた介護者にサービスを受けることを望んでいるが、このプログラムにおいて受け取る介護 者の賃金は低い。そのため介護者のリクルートと適切な介護者を派遣するための訓練が必要となる。また、介護者を常に派遣できる ように確保しておくために、このプログラムでのサービス料金で派遣されている介護者に対しては、その収入を補足するために民間 のサービス料金で行う同じ職種の仕事の紹介も行っている。

JASEB は常に地域から見えやすい存在であるために、地域のイベントに理事会のメンバーも含め積極的に参加している。また他の アジア系住民にサービスを提供している団体とも互いに協力しながら活動している。このような日頃からの地域でのネットワークの 良さにより、サービスを必要としていながら自ら申請することを快しとしない人に対して、本人からの申請がなくても迅速に対応す ることができる。また、常にサービス利用者の要望に応えていくために、サービス内容に関する満足度調査も行っている。

このような介護といったプライベートな面に触れることの多いサービスは、非常に微妙な要素を含んでいるため、様々な民族や文 化的背景、経済状況に対応できるように団体及びサービス提供の仕方が多様化しているという特徴がある。これは、サービス対象が 少数であるためサービスの提供を行政に依存できないからこそ、特定のコミュニテイに対しサービスを行うことがNPOに求められて おり、それが非常に重要な存在であることを意味している。

またこの団体の特徴としては、地域団体の連合体であるためコミュニテイの基盤がしっかりしていることが挙げられる。このこと は、年間予算約28万ドルのうち約46%が寄付金集めの活動と寄付金によるものであることからもうかがえる。


OCCCの高齢者支援プログラム

OCCCは、1968年に湾岸東部地域へのアジアからの移住者を支援するために設立されたNPOである。年間予算は約130万ドル、有 給職員60人(ASSETSプログラム(後述)による配置職員が17人)で、現在ではアジアからの移住者、難民に限らずあらゆる民 族を対象として、以下のようなサービスを提供している。

成人健康保健センター(Adult Day Health Care Center:現在の健康状態を最大限に維持していくためのリハビリや社会福祉サー ビスを行う、州健康サービス課によって認可を受けた通所型の施設であり、Medi-Cal(医療補助、低所得者のための公的医療扶助制 度で州により異なる。全米ではmedicareと呼ばれているが、カリフォルニア州では上記の名称となる)の適用を受け、ここで行わ れるプログラムは州高齢者福祉課によって監督を受ける)、雇用とトレーニングに関するプログラム(就職するのに必要な技能や英 語を教える18週間のトレーニングプログラムを実施し、1995年は41人が参加した。またデータベースによる就職先の照会も 行っている)、社会福祉サービスプログラム(市民権を取得することを目的とした英語と広東語による学習会の開催や、低所得の家 庭の税の申告手続きを手伝っている)、成人社会福祉センター(Adult Social Day Care Center:州社会福祉サービス課により地域の 通所型の福祉施設として認可を受けている。ここにはOCCCの職員2人とオークランド市から派遣されているパート職員4人がい る。これらは、 ASSETSプログラムにより市と各NPOとの契約によって派遣されている55才以上の職員で、週の労働時間は20時 間、契約期間は2年であり、給料(最低賃金に近い)は市が支払うことになっている。これらの職員がNPOの職員になることに問題 はなく、市でもむしろそれを奨励しているが、NPO側では経済的な余裕がないため実際は難しい)、社会福祉プログラム(成人社会 福祉センターでの手芸教室や健康体操、自動車による送迎サービスを1995年は361人が利用し、10人のボランティアにより 高齢者の家庭訪問サービスが6,079時間、外出できない高齢者の買い物代行サービスが770時間実施された)、在宅介護プログラ ム(ケアリングハートという在宅介護プログラムに対して、オークランド市から Community Development Block Grant(地域社会 包括基金=CDBG)として1996年7月に2万5千ドルの資金援助を受け、このプログラムの立ち上げ資金となった。これは介護が必要 な成人や高齢者の在宅介護を行っている家族のために、在宅介護の支援を行なうために介護者としてOCCCの職員を派遣するサービ スで、1996年7月にスタートした。料金を随時支払ってサービスを受けたい時にだれでも利用できる。利用料金は8〜13ドル/時間 である。OCCC では職員の派遣から、雇用関係において生じる税金、保険、事故責任等の手続きも全て行ない、定期的に家族と連絡 を取り合い派遣職員の監督を行っている)。

湾岸東部地域では移民人口は増加し続けており、それに伴ってOCCCへのサービス需要も高まっている。にもかかわらず、現在 OCCC が移民に対して行っている社会福祉や健康に関するプログラムへの政府からの補助金が大幅に削減される、という厳しい現実 に直面している。

しかしOCCCではこのような状況を、行政の資金援助に依存しなくても団体の活動を継続していくことが十分に可能な基盤作りを 進めるための良い機会であるとして、むしろ前向きな姿勢で受け止めている。そしてそのために必要なこととして以下のような努力 事項を掲げている。(1)政府資金への依存を減らすために、個人からの寄付とコミュニティからの支援を中心とした多様な収入源 を確保すること、(2)サービスの利用者の幅を広げること、(3)従来団体にはなかった技能や才能を持った多様な人材を、職員 や理事会のメンバーに起用すること、(4)高齢者、移民、貧困者のための政策提言に力を入れていくこと。

つまり、OCCCはこれまで以上に効率的なサービスを実施していくことが求められている一方で、サービスを受ける住民自身も OCCCのサービスを通じてコミュニティへの帰属意識と発言力を高めていくことが求められているのである。OCCCではすでに団体 の体質強化に向けての取り組みと共に、コミュニティとのより良いパートナーシップを築くための取り組みが始められている。

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