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NPO関連

アメリカにおけるNPOと行政のパートナーシップ

日本太平洋資料ネットワーク
柏木宏

「政府と第三セクターの関係は、反目しあったり敵対的なものではなく、協同的なものが(アメリカの歴史のかなりの期間を通 じ て)主要な性格を形成していた」

Waldemar Nielsenは、"The Endangered Sector" のなかで、アメリカにおけるNPOと行政の関係をこのように形容している。

ここで用いられた「協同的なもの」の原語は、"Collaboration"である。Neilsenの意味するところは、「パートナーシップ」と同 様の概念といっていいだろう。しかしながら、彼のことばは、NPOと行政がパートナーシップを形成してきたという認識が一般 化し ているということを意味するものではない。NPOの研究に携わる人々の間でも、異なった認識が強く存在していた。

この背景には、大別してふたつの理由がある。ひとつは、NPOと行政の関係に対して十分な検討が行われず、通 念に基づいた考え が広がっていたこと。もうひとつは、パートナーシップの定義やNPOと行政がパートナーシップを形成する意義、すなわちNPOと行 政のパートナーシップに関する理論が明確になっていなかったことだ。この小論は、アメリカにおけるNPOと行政の関係を分析する なかで上記のふたつの点を明らかにすることにより、日本におけるNPOと行政の関係のあり方に一助を提供することを目的として書 かれるものである。

行政によるNPOへの財政支援

アメリカにおけるNPOと行政の関係は、植民地時代にまでさかのぼることができる。大学への援助は、その一例だ。マサチューセ ッツの植民地政府は、ハーバード大学の運営資金を調達するために特別 税を設立、さらに学長の給与の一部を独立戦争直後まで支払 っていた。19世紀後半から20世紀初等にかけての病院や民間団体による生活困窮者への援助活動でも、行政機関との同様な関係が みられた。1904年の人口統計によると、全米の病院の収入の 8%は政府からのものだった。また、1880年代後半、ニューヨーク州 の 200件の孤児院における行政からの収入は、民間の寄付の 2倍に達していた。

以上のような状況があったからといって、公共的なサービスのすべてを行政が民間団体に依存していたということではない。19世 紀の社会福祉分野では、州政府や自治体は障害者の施設運営などを中心にした反面 、在宅看護などのサービス活動の多くを民間を通じて提供するという「住み分け」の形態をとった。

しかしながら、行政によるNPOへのこうした支援は、1930年代のニューディールまでは、基本的に小さな政府の枠組みにおける ものであった。ニューディール以降、政府は巨大化し、公共サービスの提供におけるNPOの役割は、より大きくなった。とはいえ、 ニューディール時代の政府の社会福祉政策は、障害者や高齢者への医療や生活面 での現金援助が中心で、この現金援助がNPOのサー ビスに利用されるという形で、NPOと行政の関係が形成されていた。

1960年代の「偉大な社会計画」を通じて連邦政府は社会福祉プログラムを大きく推進、この過程で連邦政府が直接、または州政 府や自治体を経由してNPOに事業委託や事業への補助金を支出するというパターンが制度化された。Social Service Block Grantや Com-munity Development Block Grantなどが、それだ。また、社会福祉以外でも、半官的な性格をもつNational Endorment for the HumanitiesやNational Endorment for the Artsなどの機関が設立され、政府資金を直接NPOに還流させるルートとなった。

この結果、Lester Salamonらの推計によると、1980年に連邦政府がNPOに直接的、間接的に提供した資金は医療や社会福祉を中 心に 404億ドルにのぼり、これらの分野における政府支出の 1/3を占めるにいたった。また、州政府や自治体からNPOに提供された 資金は、80〜 100億ドルにのぼると推定されている。これに対して、NPOの収入に占めた個人の寄付などの民間の資金は、 255億 ドルに止まった。このように、NPOと行政は、事業と財政の関係において、お互いに切り離せない状態になっている。

NPOの収入源の変化

 
民間寄付
事業収入
政府資金
その他
1977年 26.3% 37.5% 26.6% 9.6%
1978年 21.8% 38.7% 28.1% 11.4%
1979年 22.9% 40.8% 27.9% 8.4%
1980年 18.4% 39.1% 31.3% 11.2%

(出典)"Nonprofit Almanac: 1996-97", Independent Sector, 1996

 

NPOへの税制優遇と規制強化

1940年における全米のNPOの団体数は、 1万2500にすぎなかった。しかし、1950年には 5万団体となり、67年には30万団体 を突破、さらに89年には79万団体となり、過去40年間で80倍もの増加となった。営利の事業体の場合、同じ期間に47万から 300 万へと 7倍の増加に止まっていることを考えると、NPOの成長の著しさが明確になる。このNPOの成長は、税制優遇をはじめとした NPOの活動を支える政府の政策と無関係ではないだろう。反面、この間、NPOの活動に対する規制が強化されてきたことも事実であ る。ここでは、このふたつの側面を検討してみよう。

1831年にアメリカを訪れたフランス人、Alexis de Tocqueville は、帰国した後に著した"Democracy in America"のなかで、民 間の人々によって設立された団体により極めて広範囲にわたる社会的なサービスが提供されている現状を指摘、こうした状態は「世 界中のどこにも存在しない」と述べている。この政治学の古典の著者の指摘をまつまでもなく、アメリカには数多くの民間団体が活 発な活動を展開していた。

だが、連邦レベルにおける民間団体の法的な認知は、1844年の最高裁判決までまたなければならなかった。Girard Will ケースと 呼ばれるこの裁判で、人々は、NPOを設立して運営する権利をもつことが認められたのである。しかし、この判決そのものは、NPO の設立や運営の方法を直接規定したわけではない。判決から 1世紀後の1943年、ニューハンプシャー州は、非営利の団体を州政府 に登録し、理事によって運営されることを盛り込んだ法律を可決。同法は、各州で民間団体を法人化するための法律の基礎となっ た。

アメリカでは、団体の法人化は税制優遇措置をえるための手段、という考えが強い。民間団体の税制優遇措置については、植民地 時代から存在したが、州や地域により大きな差があった。州レベルの措置で特筆すべきは、1874年にハーバード大学の税制優遇に 関する裁判が行われたことだ。大学側は、税制優遇による社会的利益を経済的な面 から説明、裁判の勝利だけでなく、州レベルの法 律の制定にも寄与した。なお、所得税や法人税からの控除が連邦レベルで認められたのは、20世紀に入ってからだ。

税制優遇措置は、「税金逃れ」の可能性を常に内包している。このため、古くはカーネギーやロックフェラーが財団を設立すると きにも、議会も巻き込んだ議論が噴出した。とはいえ、政府によるNPOの規制が明確になってきたのは、戦後のことである。1952 年、下院委員会は、税制優遇措置を受けている財団が共産主義の支援など設立目的以外の活動をしていないかどうか調査を実施した が、概ね問題ないと報告した。しかし、調査に不満をもった Reece下院議員は、特別 委員会を設けて調査を続けた。共産主義への支 援などはみられないとしたものの、この後、税制優遇措置の制約や財団の活動に制限を加える動きが広がった。さらに、1970年代 には、いわゆるFiler 委員会が設けられ、NPOの実態に関する広範囲な調査が行われた。

NPOと行政の関係の「神話」批判

以上のように、NPOと行政の関係は、財政的に極めて深いものがある一方で、政府によるNPOの活動の規制という側面 もみられ る。このような全体像を描いたうえで、NPOと行政の関係が「パートナーシップ」といえるものであるかどうか、理論的に検討して いきたい。しかし、その前に、NPOと行政の関係がこれまで理論的に整理されてこなかった背景にあるといわれる両者の関係をめぐ る「神話」にメスを入れておこう。

Lester Salamonは、NPOと行政の関係に研究者の目があまり向けられなかった理由として、福祉国家の理論とボランタリー・セク ターの理論の存在をあげている。前者は、行政を資金提供者、NPOをサービス・プロバイダーと位 置付けるものだ。ここでは、両者 のこの固定された関係のなかだけで、社会的サービスの提供すべてをとらえようとしている。一方、後者は、いわゆる政府の失敗、 市場(企業)の失敗という論理のもとに、ボランタリー・セクターの存在をみるというものだ。この考えからは、失敗者である政府 や市場(企業)との連携という考えはでてこない。

ここで Salamonは "Rethinking Public Management: Third-Party Government and theChanging Forums of Public Action" のな かで、「第三者政府」という概念を提起している。連邦政府が各種のサービスを提供する際に、州政府、自治体、大学、病院、企業 などの連邦政府以外の機関を通じて行うという形態が広範囲に採用する状況のことだ。こうした機関のひとつが、NPOなのである。 サービスの提供過程において、連邦政府は、すべての権限を放棄しているのではなく、監督権を留保している。しかし、基本的な部 分は、実施機関の裁量に任されるという点が特徴となる。

では、なぜアメリカの連邦政府は、こうした第三者政府という立場をとっているのか。Salamon は、 3つの理由をあげている。最 初は、連邦制度というアメリカの憲法に規定されたシステムの反映である。すなわち、憲法は、連邦政府と州政府が調整しながら社 会のニーズに対応していくことを求めており、その帰結として、連邦政府が州政府などの機関を通 じて各種のサービスの提供を行っ ているというのである。

第二に、政治的な多重構造という問題がある。連邦政府がすべての社会サービスの提供を独占するのではなく、利害関係をもつ機 関に一定の参加を求めることで、より安定的に行えるということだ。連邦政府の医療保険であるメディケアや州政府を通 じて実施さ れる医療補助のメディケイドの提供において、競合関係にたつ民間の保険会社や病院にも参加を求めることで、両者の緊張が軽減さ れるというような例をあげている。

最後に、社会的サービスの提供における効率性と経済性の問題がある。Alexis de Toc-quevilleの指摘をまつでもなく、アメリカで は、植民地時代からさまざまな団体が社会的なサービスを提供してきた。こうした状況のなかで、連邦政府が新たに施設を建設し、 人を雇い、トレーニングを実施し、ノウハウを獲得してサービスの提供を行うより、既存の団体に依存した方が効率的かつ経済的で あることは自明だ。また、第三者機関を利用することで、第三者機関内で競争が発生し、コストが軽減されるという側面 もある。

「社会危機」との関連

第三者政府という概念を用いたSalamon の理論は、アメリカにおけるNPOと行政の関係の発展を理解するうえで重要な役割をもっ ているといえる。だが、上記の理由のうち、第一と第三に関しては、アメリカの特殊性に鑑みたものとなり、日本をはじめとした他 国に適応することができない内容となっている。こうした理論的な弱点を補い、NPOと行政のパートナーシップの生成と発展を示す ためには、どのような内容が付け加えられる必要があるのだろうか。

ここで、ふたつの理論的枠組みを提供したい。ひとつは、Salamon の理論を特殊アメリカ的な現象として理解するのではなく、よ り普遍的な位 置からとらえなおすことである。もうひとつは、NPOと行政のパートナーシップが形成、変化していく要因として、社 会危機があるということだ。

前者に関しては、まず、アメリカほど顕著でないにせよ、日本においても、いかに中央集権的にみえたとしても、歴史を通 じて 「地方自治」が存在し、共同体的なものにせよ社会的なサービスを提供する機関があった事実を確認する必要がある。幕府が農民か ら直接税金を取り上げていたのではないし、寺小屋のような民間ベースの教育機関が作られていたこともたしかだ。また、日本で も、政府が政府以外の機関に依託をするうえで、効率性や経済性の問題が考えられていないわけではない。

以上のように、Salamon の理論におけるアメリカ的特殊性に依拠した部分は、解釈を拡大することにより日本的状況に適応するこ とができる。では、彼の理論にはない社会危機との関連とは、どのような内容を意味しているのだろうか。アメリカで、NPOと行政 の関係が議論にのぼったのは、第一次大戦前後、ニューディール時代、戦後の冷戦時代、一九六〇年代から七〇年代にかけてのよう に社会的、経済的、あるいは国際的な問題が深刻な時期であった。

このように社会が危機に陥ったとき、NPOという民間の社会組織は、行政に対して反旗を翻す存在になる可能性は十分にある。こ のことは、NPOが本来的に反政府的な位置を占めているという意味ではない。社会危機へ対応することが求められたとき、行政が積 極的に対処していなければ、行政批判に向かわざるをえないということだ。危機の時代において、行政がNPOを「取り込む」手段と してのパートナーシップ。これは、Salamon の理論の第二の点をかなり拡大解釈した意味合いをもつ。なお、ここでいう社会危機と は短期的な激動だけを意味するのではない。高齢化社会の進展といった数十年にわたる現象であっても、これに行政と企業を中心と した既存のシステムだけで対応することは困難という現実なども含まれる。

なお、NPOを利用した場合の効率性や経済性という点については、行政にはなじみにくいボランティアや寄付をNPOが活用できる ということも付け加える必要がある。人々と行政の関係は、納税者とサービス提供者だ。したがって、人々が行政にボランティアや 寄付をするというのは、例外的にしか生じない。しかし、NPOの場合、自ら必要性を感じる社会サービスの提供主体であるため、ボ ランティアや寄付の動機が大きくなる。この結果、NPOの効率性や経済性、あるいは価格競争力がでてくるといえよう。実際、行政 にNPOが補助金を申請する条件のひとつとして、申請するプログラムにおけるボランティアの活用度を設けるという例もある。

パートナーシップの理論

以上、アメリカにおけるNPOと行政の関係の歴史と現状、両者の関係の多様な形態を概観するとともに、この関係が生まれ、発 展、変化してきた背景を説明する理論を考察してきた。最後に、NPOと行政の関係をパートナーシップと規定しようとする場合、パ ートナーシップの原則とその具体的な形態について、まとめておこう。

NPOと行政のパートナーシップとは、パートすなわち部分(NPO)と部分(行政)が協同して何らかの共通 の目標に対して取り組む こと、あるいは取り組むためのシステムと定義したい。この定義のもとで、パートナーシップの原則は、非同一性、対等性、時限性 3つに大別できる。

非同一性とは、NPOと行政という異なった存在による協同作業という意味である。同じものであれば、相手の協力をえる必要はな い。対等性は、お互いが同じ存在ということではない。異なった存在である以上、当然である。ただし、これは、「抽象的な平等」 という概念ではない。非同一性の複数の存在が作業を実施するにあたって結ぶ契約あるいは合意において、それぞれの役割が明確に され、その役割を担う責任と権限をもつという意味で対等になるということだ。ここでいう契約とは、行政によるNPOへの事業契約 だけをさしているのではなく、何らかの共通の課題を取り組む際の合意をいう。なお、行政のNPOへの資金流入形態としては、通 常、事業委託、補助金、還付金の 3つがある。

最後の時限性とは、共通の目標を実施するための連携という性格上、一定の期限あるいは限定された協同作業が存在するという意 味である。これが終了して、次の協同作業がでてくるということはありえる。しかし、それは、以前のものとまったく同一というこ とにはならない。ただし、法律などの社会的なシステムは、より長期間にわたる。

NPOと行政が異なった存在である以上、非同一性の具体的形態については、触れる必要はないだろう。時限性についても、契約と いう性質上、永久のものということにはならないことは自明だ。

では、対等性の問題はどうか。パートナーシップの具体的な形が契約によって示されるとするならば、契約主体として双方が存在 しうるということは重要な点だ。団体の法人化という問題は、ここで契約主体としての位 置を認定することでもある。したがって、 NPOと行政のパートナーシップというならば、NPOを契約主体として認める法人化が必要となる。なお、税制優遇措置は、NPOの日 常レベルの財政を保障し、時限性のあるパートナーシップ以外の時期の存立を助け、次のパートナーシップを可能にさせるという意 味において、対等性の基礎のひとつといえよう。

対等性との関連で重要なのは、行政サイドによるNPOへの規制に対して、NPOはアドボカシー機能をもつということを承認するこ とである。アドボカシーということばは、多様な意味を含んでいる。ここでは、行政への働き掛けと定義する。行政への政策提言や ロビーだけでなく、行政の行動の監視という部分もある。こうした活動には、情報公開システムが不可欠だ。行政のNPO規制にNPO のアドボカシーが対置されることにより、両者は、緊張関係をもった対等なパートナーシップとなりうる。NPOのアドボカシーによ り、行政の政策や内部の行動が一定程度公に検討され、問題があったとしても、危機的な状況になる以前に、行政は自らの行動を修 正する道を開くことができる。

なお、アドボカシーは、NPOのすべてが行っているという意味ではなく、NPOセクターとしてこうした機能をもっているという意 味だ。換言すれば、NPOと行政は、個々の契約により個別のパートナーシップが成立するだけでなく、セクター間の関係においてパ ートナーシップが成立していなければならないのである。

パートナーシップの概念図

非同一性 対等性 時限性
NPO→(双方の強み)←行政 NPO→(具体性)←行政 NPO→(契約)←行政
性格的相違 制度的側面 特定課題
特定課題  全体 法人化  登録受付
経営的相違 税制優遇  認可  事業契約
ボランティア 職員  事業的側面  
寄付    税金 事業実施(契約)資金提供 実施
社会的側面
アドボカシー、監督、規制 終了

 

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